KOBECCO(月刊神戸っ子)2025年1月号
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―血管はどの部分でも必ずつなぐのですね。とても細かい技術が必要ですね。そうです。血管をつながないかぎりは移植した組織がその場所で生きて働くことはありません。1ミリ程度の血管をつなぐのですから、さすがに肉眼ではできず、顕微鏡下での手術「マイクロサージャリー」が行われています。起源は紀元前にまで遡るといわれる形成外科の歴史の中でマイクロサージャリーが取り入れられてから再建術は大きく変わりました。―それ以前は、一旦切り離して持ってくることはできず、舌の再建などはできなかったのですね。血管を切ってつなぐ方法を取れない方もおられますので、今でも場合によって使い分けています。乳房再建では背中から、舌がんでも大胸筋に血管をつないだまま鎖骨の上から首を通して口の中まで持ってくる方法を取るケースもあります。―臓器移植チームにも形成外科の先生方が加わっておられるのですか。神大病院では、マイクロサージャリーで動脈をつなぐ役割を担って肝移植チームに加わっています。―創傷治療でも手術後と同じような再建術が取り入れられているのですか。創傷と再建は同じ線上にあり、けがでも手術でもコンセプトは同じで場所によって方法が全く変わってきます。人間の体には一定の決まり事があります。例えば、皮膚の下に皮下脂肪があり、筋肉があり、走っている血管がそれらを養っています。これはお腹、背中、太もも…どこでも同じです。しかし場所によって形や厚み、筋肉の走り方など特性が大きく違います。形成外科医は頭のてっぺんから足の先までたくさんあるバリエーションをおおよそ分かっておかなくてはならず、これが形成外科の難しいところであり、学問としておもしろいところです。―榊原先生の専門外来の顔面神経麻痺とリンパ浮腫も形成外科の治療範囲なのですか。ウイルス感染などが原因で発症する顔面神経麻痺については急性期の治療は耳鼻咽喉科の担当ですが、まれに後遺症が残り神経が再生せず顔の筋肉が動きにくくなったり、間違った形で神経が再生したりするケースがあります。また耳下腺がんの手術で顔面神経を切除するケースもあり、神経の移植や他の部分の筋肉を持ってくる手術が必要になる場合には形成外科が協力しています。リンパの流れが悪くなり滞った部分が腫れるリンパ浮腫では、乳がんの手術で腋の下のリンパ節も切除した場合や子宮がん・卵巣がんなどで腹部のリンパ節も切除した場合に多く、乳腺外科や産婦人科をはじめ各診療科で治療に当たっていました。最近はリンパ管を静脈につなぎ新しい通り道を作る手術など、外科的に治療しようという考え方が浸透し、形成外科で引き受け総合的な治療を行っています。―神大病院形成外科の良いところは?108

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