KOBECCO(月刊神戸っ子)2024年12月号
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密度で表わします。「トランポリン」が平面になるちょうどよい密度を、「臨界密度」と言います。「トランポリン」の上にある物体、すなわち宇宙にある物体の質量の密度が、臨界密度より大きいと、「トランポリン」、つまり宇宙の空間は曲がってしまいます。逆に、その密度が臨界密度より小さいと、「トランポリン」、つまり宇宙の空間は反対側に反り返ってしまいます。宇宙空間が平らであるためには、宇宙が重くても軽くてもだめで、臨界密度ぴったりでないといけないのです。なかなか厳しい条件です。ということを頭に入れた上で、では、観測的事実として、実際の宇宙ではどうなっているのでしょうか。実は宇宙は驚くほど平坦なのです。なにせ、宇宙の「晴れ上がり」が観測できるほどですから、少なくともそこまでは「地平線」がないのです。「晴れ上がり」は百数十億年前のできごとですから、そこはまさに宇宙の果てに近いです。そこまでずっと平らであるということは、宇宙の密度は、臨界密度ぴったりであることになります。神が創ったならともかく、気まぐれな自然が、そんなに厳密に臨界密度ぴったりになるものでしょうか。「たまたまそうなった」と言ってもいいのですが、我々物理学者は「たまたま」などということでは納得せず、なにかそうなるメカニズムがあるはずだと、それを考え出すものです。単純なビッグバン理論だけでは説明のつかないメカニズムを。これがビッグバン宇宙論の一つめの問題、「地平線問題」です。「一つめ」ということはほかにもあるわけで、次の問題については次回ご説明しましょう。PROFILE多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。68

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