KOBECCO(月刊神戸っ子)2024年12月号
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日本の大量販店と手を組んだワーナーマイカル・シネマズというコンプレックス型映画館を神奈川県郊外にオープンしたのもこの年だ。総合スーパーの中に併設したスクリーンが7つもある、買い物のついでに映画を観るか、映画のついでに買い物するかの映画デパートだった。「それはないやろ。映画はついでか」と思うと悔しくて“映画館”とは呼びたくなかった。映画館は駅裏通りにあって、「今週はペキンパー監督の『わらの犬』(72年)と『ガルシアの首』(75年)の2本立てやで」と小声で呼びかけて部屋の書棚に残してある、ボクの“映画ノート”を見直していると、1993年になって、映画館で観た洋画はほんとに僅かだ。邦画は一作もメモにない。観たいものがなかったんだろう。バブル経済がはじけた後、時代そのものに活力がなくなり、映画人たちも破天荒でわくわくする物語を創り出すパワーやセンスを喪失していたようだ。ボクも映画らしい映画を作れていなかった。製作会社「にっかつ」も事実上、倒産した。だが、低迷する興行界に挑戦するように、アメリカのワーナー映画がくれる社会の隠れ家だった。ボクら映画屋が“小屋”と呼ぶ映画館があちこちで閉館していく中、「色々と品数は揃えてるから、ついでに観て帰ってよ」と言わんばかりの新型の見せ物小屋は好きになれなかった。その出来たてのシネコンを見分しに行ったのは覚えている。でも、何の映画をついでに観たのか、思い出せない。93年は、先月号にも書いたが、C・イーストウッド監督の『許されざる者』みたいな、胸のつかえを吹き飛ばしてくれた作品以外ほとんど観ていない。メ井筒 和幸映画を かんがえるvol.45PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。50

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