えると、「そう、それならよかった!」とほっとした様子で笑顔を弾かせた。半世紀にわたり、ずっと応援してきてくれた全国にいる〝いとこ〟たちのために心を込めて歌う…。キャンディーズ時代、なぜあれほどまでに多くのファンに親しまれ、国民的アイドルとして君臨してきたのか。なぜ、突然の解散を多くのファンが悲しんだのか。今でもファンを家族のように大切に気遣っている優しい笑顔を目の当たりにし、その理由が氷塊した。大阪でのツアー開幕の様子を会場で取材したが、伸びやかな歌声は全盛期から不変。というより、年齢を重ねた歌声は力強さは増していた。混声ではないソロの歌声を一音一音まで繊細に、聴く者の胸に届けようとする気迫に満ちあふれていた。さらに切れのあるダンス、華やかなステージの演出など、エンターテインメントの一時代を築きあげてきたスターの真髄を見る思いがした。神戸でのバースデー大阪を皮切りに、仙台、愛知、熊本など全国6会場のステージを終え、来年1月はいよいよツアー後半戦のスタートだ。1月は前半戦とは違った意味合いと重みが加わる。「実は京都の1月12日は〝バースデー前夜祭!〟、翌13日の神戸は〝バースデーライブ!〟というサブタイトルがつけられているんです」つまり神戸公演が開催される1月13日は伊藤蘭の誕生日なのだ。「特別な意味を持ったコンサートになりそうで…」そう待ち遠しそうに語る表情は少し照れくさそうでもあった。今から5年前。2019年に歌手活動を再開した。それ以前からも再デビューを求める声は多かったはずだ。復活の理由を聞くと、「確かに何度も復活を呼びかける声をかけてくれていました。そして5年前。これが最後のチャンスかもしれない。この時期を逃したらもう歌うチャンスは来ないのかもしれない…。そう思って復帰を決意しました」と打ち明けた。全盛期から変わらない歌声とダンス。再開したコンサート活動では十二分にそれを証明してみせたが、こんな本音も吐露した。「新曲のレコーディングを行ったときです。いざ、マイクの前に立つと、のどの調子が悪くなって…」コンサートのバンマスであり、このときレコーディング・ディレクターを務めた佐藤準が、「心配しないで。歌手にはよくあることだから」と声をかけてくれた。「準備万端で臨んだつもりでしたが、プレッシャーはやはり隠せなかったのだと思います」しかし、そんなプレッシャーを跳ねのけて歌い上げた楽曲は、ソロとして新たなスタートを切った新生、伊藤蘭の復活ののろしをあげるメッセージソングとして往年のファンにも受け入れられた。22
元のページ ../index.html#22