KOBECCO(月刊神戸っ子)2024年10月号
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点を交えて読み解き、コーポレートガバナンスを「古くて新しい問題」と解説した。続いて上田先生のライフワークのひとつとなるベトナムでの活動の話題へ。そのきっかけは1988年から勤務した流通科学大学で1994年に「中国華南ベトナム流通調査隊」の実行委員長になったことだとか。その後に何度もベトナムを訪ねるようになり、1998年には在外研究先をアメリカのエール大学からベトナム国民経済大学に変更、「これが大きな人生の転機になりましたね」と振り返った。当時に培った現地の人の繋がりが、現在も大いに役に立っているという。1995年にアメリカと国交を回復し経済成長を加速していったベトナム。そのリアルをまさに肌感覚で体感した上田先生は、「ベトナムは社会主義で一党独裁の国ですが、すでに国家の独立を達成しています」と指摘。したがって「全方位外交」の方針を採用できる。人類の普遍的な価値から見た5つの政策目標(民主制度、政治的安定=平和、経済成長、所得の格差の是正、国家の独立)を評価することが政治リスクの分析に結びつくとアドバイス。その上で、支援から競争相手へとステージが移行しつつあるベトナムを含むアジア諸国に対し、「上から目線はダメです」とキッパリ。この「ブーメラン現象」を受け止めて、共創的協力関係を築くことが重要だと説き、そこに日本経済再生の鍵があると述べた。話は〝上司〟だった流通科学大学の創設者でダイエー創業者の中内㓛氏へ移り、オープン価格制やプライベートブランド発売など日本の流通を変革した数々の実績を「もっと評価されて良い」と力説。「上から目線ではなく消費者や学生の目線に徹していました」という中内氏から多くのことを学んだと振り返り、改革のためには大義や理念を考えることの重要性を説いた。そして最後は、未来へ向けたメッセージ。「新しいことを起こすには、ネットワークを持つ者が強い。星は一つひとつ輝きますが、星座になるとまた違った意味を持ちます」と上田先生は、これからはそれぞれの独立と自律を尊重しつつ、目的に応じて結びつくconstellation=星座状連関の時代で、弱連結の強みを生かすことが重要となると予見。そのためにもいろいろな人と幅広く交流して、「自分の位置する複数の星座を探しましょう」とよびかけ講演を終了、会場は万雷の拍手に包まれた。その後は同窓生のジャズピアニスト、名定正孝さんらによるトリオ演奏や懇親会がおこなわれ、参加者たちは和やかなムードの中で旧交を温めた。流通科学大学名誉教授上田義朗 先生75

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