KOBECCO(月刊神戸っ子)2024年10月号
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力の分岐と統一 1032度 1028度 1015度 100度 弱い力 電磁力 強い力 重力 電弱力 1017度 10-11秒 10-36秒 10-44秒 LHC という予備知識を準備したところで、では、宇宙年表にある「力が生まれる」とはいったいどういうことでしょうか。実は、素粒子論と宇宙論では、「もともとすべての力は同じものであって、それが相転移によって別の力に分かれていった」という考えが基本となっているのです。もともと宇宙には原初の力とも言うべきものがあり、そこから重力が分岐し、時代が下がって強い力が分岐し、さらに時代が下がって電磁力と弱い力が分岐した、と考えられています(図)。しかも、電磁力と弱い力に関しては、実際にそうであったことが確かめられているのです。過去に遡ることはできませんが、過去と同じ状態をつくり出すことはできるからです。具体的には、そのときと同じ温度(エネルギー)の状態にしてやればいいのです。電磁力と弱い力が分岐前には「電弱力」なる力に統一されていたというのは、まず一九六七年に、「ワインバーグ=サラム理論」という理論によって理論化されました。「電磁力と弱い力はかつて同じだった」ということは、両者の媒介粒子である光子とウィークボゾンが同じだったことを意味します。しかし光子は質量のない粒子であり、ウィークボゾンは陽子の八〇倍もの質量を持つ粒子です。この二つが、宇宙の初期では同じであったというのです。本当に?これを考えるには、では、光子は質量がないままなのに、なぜウィークボゾンはそんなにも巨大な質量を獲得するのに至ったのか、その仕組みを考える必要があります。ここに、「粒子に質量を与えるメカニズム」が登場します。それについて、次回、お話ししましょう。PROFILE多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。66

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