KOBECCO(月刊神戸っ子)2024年9月号
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子からなり、原子核は陽子と中性子からなる、という話をしました。原子の種類(あるいは原子核の種類)は、陽子と中性子の組み合わせによって決まります。陽子と中性子は、すぐ隣くらいの距離まで接近すると、「強い力」と呼ばれる力によって結合し、新たな原子核となります。これを核融合と言います。核融合を起こすには、陽子と中性子が高い密度と速度を持つ必要があり、それを人工的に維持するのが難しいため、核融合発電はいまだ実用化されていません。しかし、人間には困難でも、宇宙であればそれが可能であった時期があるのです。宇宙全体でその核融合が起きるほどの高温・高密度であった時期が、この時間帯なのです。この時期の宇宙の状態を計算すれば、このときつくられた、従って現在の宇宙の、各元素の存在比が求められます。ただし、その後、恒星内の核融合や恒星の爆発などによってつくられた元素は別途計算する必要があります。この宇宙初期の元素合成の理論を考え出したのが、第13回と第14回で活躍したガモフだったのです。100秒、「そして、粒子だけが残った」。これは、第8回でお話しした、粒子と反粒子の対消滅のことです。このとき以降、言い換えれば、この温度以下では、粒子・反粒子の対生成を起こすエネルギーが足りませんので、対消滅だけが起こり、粒子・反粒子のペアが光に変わっていき、粒子も反粒子もどんどんなくなっていきます。このとき、第8回でお話ししたように、粒子のほうが反粒子よりわずかに多かったために、その後の宇宙では、粒子だけの宇宙(反粒子のない宇宙)となったのです。10-8秒から10-4秒の間、「クォークの閉じ込め」が起きます。陽子はクォークからできていることは、第3回でお話ししました。たとえば「宇宙の晴れ上がり」は、自由に飛び回っていた電子が、冷える(エネルギーを失う)ことによって原子の中に閉じ込められることで起こる「相転移」でした(第14回)。これと同様に、自由に飛び回っていたクォークが、冷えることによって陽子の中に閉じ込められることで起こる「相転移」が、「クォークの閉じ込め」です。ここから上(過去)には、それぞれ、「○○力が生まれる」とあります。「力が生まれる」とは?それについては、次回のお話としましょう。PROFILE多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。56

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