KOBECCO(月刊神戸っ子)2024年9月号
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伝わってこない遠景画面だったが、夜の闇を裂く爆弾の閃光と遠い炸裂音だけをテレビは放映していた。テレビで生の戦争が映ったのは初めてだったが、少しも悲惨に見えない違和感しかない気味悪い光景をしばらく眺めていた。そして、今までの戦争映画の虚構とは一体、何だったんだろうと想った。そのうち、こんな中東の戦争を基にして、正義を押し売りするような戦争モノがハリウッドで作られるのかと思うと、余計、嫌な気分になったものだ。1991年は世界で何があったんだろうと思い返すと、真っ先に目に浮かぶのは戦争の映像だ。年が明けてすぐ、 アメリカやイギリスやフランスなどの多国籍軍がイラクと戦争を始めた。夜中のバグダッドの市街にミサイルがひっきりなしに飛んできて撃ち込まれる、あんな不気味なライブ画像をテレビのニュース特番で見るのは初めてだった。その街で暮らすイラクの人々はその時、どうしていたんだろうか。そんなことは何一つ大衆のための映画とは、正義や栄光を見せつけることではないと思った。大衆はそんなものを望んでいるだろうか。「人々は日々の喜怒哀楽を生きる。その日々をすくい取るのが大衆映画だ」と雑記帳のメモに残している。「社会の淵にいる人々を地獄から100分間でも救出するような、そんな娯楽映画を!」ともある。読み返すと恥ずかしいが、ボクは映画哲学に明け暮れる日々だった。そんな折、中東の戦争ではない、かつての第二次世界大戦で井筒 和幸映画を かんがえるvol.42PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。38

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