KOBECCO(月刊神戸っ子)2024年9月号
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日本の中小企業とベトナムの関係変化日本国内の企業は、その規模を問わずに労働者不足を補填するために、技能実習制度(育成就労制度に今年度から移行)に依存してベトナム人を受け入れてきました。他方、「勤勉で安価な労働力」や「親日性」を主な理由にベトナム進出の日本企業も増加してきました。そのような両国の関係が変化しています。日本の給与を含む労働条件が相対的に悪化し、ベトナム人にとって日本企業の魅力が減退。また日本企業がベトナム進出したものの現地での同業者との競争は激しい。中国撤退の日本企業の「受け皿」がベトナムとも言われますが、そこで同企業は新規参入という立場になってしまいます。新たなベトナム企業の台頭今回訪問したハノイ郊外のギアミン社は、精密機械部品の生産加工工場。主要な顧客は日本ですが、そのほかに欧米にも輸出実績があります。生産現場は日本と変わらず、いわゆる5Sは当然という雰囲気で最新の生産設備が導入済み。日本の中小企業の工場より以上の元気な空気感があります。同社が、ベトナム人一〇〇%所有の会社とは直ちには思われない。それには理由があって、同社のディン社長はベトナム日系企業に一〇年以上の勤務経験があります。つまり日本企業で品質と納期の厳守、コスト削減という教育をしっかり受けながら、さらに顧客と一緒になっての問題解決にも対応してきました。ベトナム人若手経営者との連携の模索ディン社長(右端)の実弟が別会社のズン社長(左端)、その友人がクオン社長(中央)。いずれもベトナム最優秀の高度人材と言えます。たとえばクオンさんはハノイ工科大学卒業で大手日系企業に勤務し、日本勤務も経験。さらにハノイ国家大学のMBAコースや日本のJICA経営塾で学んでいます。彼は起業家精神に溢れていますが、同時に慎重な性格でもあります。このことは、日本の製造業にとってベトナム企業による「ブーメラン現象」を招いているともみなされます。日本の中小企業にとって競合相手になる可能性があります。日本とベトナムの共創的な新製品開発に向けてそうは言っても、彼らは自ら学んだ日本企業や日本人を尊重してくれています。日本企業の長い歴史の蓄積である技術力・開発力は簡単に崩壊しない。ただし冒頭で述べたように日本の人材・人手不足は深刻です。そうであれば今後の展望として、ベトナムと日本の共同開発すなわち「共創的な新製品開発」が望ましい。今は、そういった過渡期的・模索的な時期であると思います。■上田義朗(うえだ よしあき)流通科学大学名誉教授日本ベトナム経済交流センター副理事長外国人材雇用適性化推進協会(ASEO)代表理事合同会社TET代表社員・CEO躍動するアジアベトナム機械部品製造の新展開―  ―新進のベトナム人企業経営者第9回ベトナム元気8月中旬にハノイとホーチミン市に出張しました。大学勤務時代の業務は、自分の設定目的に向かって自分が調査研究し、その結果を発表することでしたが、コンサルティング業務は当然、お客様のニーズに合致した成果が求められます。このような微妙な違和感の中で今回、懇意にしているベトナム人経営者の企業を訪問する機会がありました。それを通して、ベトナム機械部品製造業の新たな動向や日本の中小企業の将来像を展望してみようと思います。文・ 上田義朗X工場内の様子ベトナム人若手企業経営者の皆さんGIA MINH 社のHP121

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