人手に渡った後、絶えてしまいましたから」 (略)。 「もしや、その私塾というのは凌雲堂というの ではありませんか?」》この辺りの記述は第九巻まで読んできたものには実に感動的な場面。今津に学問所があったというのは西宮では有名な歴史。“大観楼”という史跡があり、資料にはこんな風に書かれている。 《この場所か らは遠く和 歌山から四 国地方まで 見渡すこと ができ、今津 学檀の中心 になりまし た。》そして正にそのような場所に、1983年に新設されたのが西宮市立真砂中学校だ。詳細は省くがその校名決定委員会に出席したわたしは発言した。「西甲子園中学校などと安易な名づけはしないで、昔からある美しい地名“真砂”にしましょう」と。若き日の想い出だが、いいことをしたと今も思っている。ちょっと自慢。そんなこともあり夢中で読んでいるのだが、わたしだけで楽しむのはもったいない。そこで毎晩のように妻に読み語ってやっている。因みにわたしは「読み聞かせ」という言葉が好きではなく「読み語り」だ。この大長編を読む余裕は妻にはない。彼女は忙しいのだ。わたしの近くで用事をする時に、「読むで」と言いながらあらすじを説明し、感動する場面を読み語ってやる。なので、わたしは同じところを二度読むことになる。それでも涙ぐんでしまって声が詰まることがあるが、そんな時、彼女も涙ぐんでいる。老夫婦が二人で楽しんでいるのだ。さあ、次の巻を本屋さんに買いに行こう。(実寸タテ15㎝ × ヨコ10㎝)■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)、随筆集『湯気の向こうから』(私家版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会員。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。99
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