宇宙は冷めていく一方なので、この相転移以降は、光はもう何にも妨害されずに直進していきます─そして、今でも飛び続けているはずです。「火の玉宇宙」を提唱したガモフは、今でもそれが観測できるはずだと言いました。光の速度は有限であるために、宇宙で観測される天体からの光は、遠い天体からのものであるほど、その過去の姿を見ているわけです。たとえば太陽からの光は地球に到達するまでに八分ほどかかりますから、実は我々は現在の太陽を見ているのではなく、八分前の太陽の姿を見ていることになります。これがアンドロメダ銀河であれば二五〇万光年離れていますから、二五〇万光年前の姿を見ていることになります。この理屈で行けば、宇宙の最果てを観測すれば、一四〇億年前、宇宙が誕生してから四〇万年後の姿、その「過去からやって来た」光を見ることができるはずです。なぜなら、それ以降、宇宙は「晴れ上がり」、そのとき自由となった光が、何の障害物もなく我々れる瞬間が。自由に飛び回っていた水蒸気が窓に捕らえられて水滴になるように。この相転移の瞬間に、いったい何が起こるのでしょうか。宇宙は光で満ち溢れています。第8回でお話ししたように、物質、つまりここに出てきた電子などの、一〇億倍もの量です。しかしこの光は、電磁波ですので、電磁力が働き、電荷を持った粒子と反応します。ですから、プラズマのように電荷を持った電子や原子核が自由に飛び回っているような場所では、それらと反応し、ぶつかって、自由に飛び回れません。言わば宇宙は「曇った」状態となっていました。ところが、電子が原子の中に閉じ込められる相転移が起こったとたんに、光は障害物なしに自由に飛び回れるようになり─いえ、「回る」という言葉は不適切で、障害物のない空間では光は直進するので、はるか彼方まで飛んでいくことになります。これを「宇宙の晴れ上がり」と言います。宇宙が誕生して四〇万年後に起こったと考えられています。ルギーと、原子核と電子との間に働く電磁力による位置エネルギーのバランスが取れているからです。この原子の温度を上げていくと、前回お話ししたように温度とは粒子の運動エネルギー(の密度)ですから、運動エネルギーのほうが大きくなっていって、あるところで電子は軌道に乗っていられなくなり、外に飛び出してしまいます。この、原子核と電子がばらばらになった状態を、プラズマと呼びます。宇宙の初期はとてつもない高温だったのですから、当然ながら最初はこのプラズマの状態でした。ところが、宇宙が膨張していくと、これも前回お話しした断熱膨張によって温度が下がっていきます。すると、あるところで、電子は軌道に乗るのにちょうどよいくらいまでエネルギーが下がり、原子の中の軌道上に閉じ込められてしまいます。これが原子レヴェルでの相転移です。宇宙がどんどん膨張していく、つまりどんどん温度が低くなっていくと、あるところでこの相転移が起こるのです。自由に飛び回っていた電子が原子の中に閉じ込めら63
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