KOBECCO(月刊神戸っ子)2024年8月号
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多田先生!素粒子物理学者の   宇宙物理学教室教えて 自然界で最も大きな存在が宇宙、そして最も小さな存在が素粒子と考えられている。素粒子を研究することで、宇宙のはじまり、人間の存在を解明する︱︱ 日本の誇りをかけて、その最前線で日々研究に打ち込む素粒子物理学者・多田将先生。この連載で謎に包まれた宇宙について多田先生に教えていただきます。さあ、授業のはじまりです!前回は、宇宙の初期にはすべての物質が一箇所に集まっていたために、とてつもない高温になっていた、という話をしました。今回は、本当にそうだったのか、その証拠はどこにあるのか、についてお話しします。今回はまず、「相転移」からお話ししましょう。「相」とは状態のことで、それが変わることです。たとえば身近な例として、水蒸気が水に変わる反応について考えてみましょう。同じ物質でも、水蒸気は気体で、水は液体と、それぞれ「相」が異なります。そのときの温度や圧力によって、もっとも安定した状態のほうに変わります。みなさんは電車通勤をされていますか。冬の寒い時期に満員電車に乗ると、窓が曇ってきます。これは、乗客の呼気に含まれる水蒸気が、窓で細かい水滴に変わったものです。みなさんの身体は暖かいので、呼気として出たときは気体(水蒸気)の状態ですが、窓に触れると、それを通じて外気に冷やされて、液体(水)の状態に相転移するのです。こういった相転移は、あらゆる場所で、あらゆるものに対して見られる現象ですが、宇宙の初期にも、あらゆる階層で見られた現象です。階層と言いましたが、それは、素粒子のレヴェル、原子核のレヴェル、原子のレヴェル、分子のレヴェル……そういった各階層です。今回は、原子レヴェルでの相転移に注目してみましょう。原子は、原子核の周囲を電子が決まった軌道を描いて周回しています。ところがこれは、我々の周辺の「冷えた」状態での話です。電子の運動エネ連載〜第14回〜 ビッグバンの名残り62

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