KOBECCO(月刊神戸っ子)2024年7月号
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テレビスペシャル『本所・桜屋敷』より劇場版『血闘』よりい時代劇だったのかと思いました。もっと、早く観ておけばよかった…」そう反省を加え、染五郎が語ると、幸四郎が、「遅くはないです。今でいいんです。だって、もし、5年前だったら、今回のように一緒に鬼平を演じることはなかったでしょうから」と笑った。〝同一人物〟を演じているため、〝親子共演〟のシーンは残念ながらないのだが、劇場版の中で印象的なシーンがある。〝荒々しい放蕩無頼な若き日の鬼平〟(染五郎)の顔から〝信奉厚い火付盗賊改方の鬼平〟(幸四郎)の顔へ…。怖いレッシャーを感じながらも現場で考えた〝親子共演の意義〟を噛みしめるようにして語り、「若い頃の鬼平を演じていて、この役がとても好きになり、強い愛着を覚えるようになりました。できれば、また演じてみたい」と続けた。親子で挑む壁染五郎にとっては曾祖父と大叔父が演じてきた鬼平。そして父がそれを受け継いだ。「出演が決まって、過去の鬼平犯科帳の映像を観させていただきました。こんなにも面白もの知らずの鼻っ柱の強そうな表情から、人生の辛苦を幾つも乗り越えてきたしたたかな男の表情へとつながるシーンは、まるで、代々受け継ぐ鬼平役の重みを伝えるドキュメンタリーのようでもあり感慨深い。池波が初代白鸚をイメージしながら書いたといわれている鬼平は、二人にとっても特別な役なのだ。「実は父と鬼平の役作りについて打ち合わせしたり、話し合ったりしたことはありません。ですが、このシーンは最初に父が撮っていたので、その表情や所作などを見て確認し、父が演じる鬼平の顔へとつながるように…と意識しながら演じています」長男がこの場面の役作りについて解説する姿を隣でうれしそうに幸四郎が見つめていた。今から3年前。2021年に公開された劇場版アニメ「サイダーのように言葉が湧き上がる」で染五郎は主人公の〝俳句で自分の思いを人へ伝えるシャイな高校生〟の声優役に抜擢された。声優初挑戦だった。同作のプロデューサーの一人23

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