KOBECCO(月刊神戸っ子)2024年7月号
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られた〝国民的英雄像〟を引き継ぐことになったのだから…。「実は叔父さま(吉右衛門)とはかつて鬼平のドラマで共演させてもらっているんです。そのときの叔父さまは楽屋にいるときから、すでに鬼平そのものでした」としみじみと振り返った。そこにいたのは、幼い頃から可愛がってもらってきた優しい叔父の顔ではなかったのだと。撮影現場の目の前で〝鬼平を体現〟していた吉右衛門は実新作の小説や映画に新譜…。これら創作物が、漫然とこの世に生まれることはない。いずれも創作者たちが大切に温め蓄えてきたアイデアや知識を駆使し、紡ぎ出された想像力の結晶だ。「新たな物語が始まる瞬間を見てみたい」。そんな好奇心の赴くままに創作秘話を聞きにゆこう。第44回は、長年、時代劇ファンに親しまれてきた人気作を、キャスト・スタッフを新たにし、映像化した新シリーズ「鬼平犯科帳」SEASON1の劇場版最新作『鬼平犯科帳 血闘』に親子で出演した歌舞伎俳優、十代目松本幸四郎と長男、八代目市川染五郎の登場です。世界に誇る時代劇に臨む覚悟…代々受け継ぐ英雄像への思いTHESTORYBEGINS-vol.44■歌舞伎俳優■十代目 松本 幸四郎さん八代目 市川 染五郎さん⊘ 物語が始まる ⊘シリーズのドラマと映画が公開されることが発表された『鬼平犯科帳』の主人公…。この特別な年に五代目鬼平(長谷川平蔵)として指名されたのだ。さらに、謙虚な彼が「この役は特別」と強調するほどに鬼平への思い入れは強い。祖父の初代 松本白鸚が初代の鬼平を務め、父である二代目白鸚の弟、つまり叔父の二代目中村吉右衛門が長らく四代目の鬼平を演じ、綿々と築き上げ託された鬼平の系譜「これぞ時代劇の王道。世界に誇れる日本の時代劇ができた。そんな自信があります」取材で開口一番、松本幸四郎はこう熱く語り始めた。穏やかで謙虚な幸四郎の表情が、いつになく険しく力が入っているのも無理はないだろう。原作者である時代小説作家、池波正太郎の生誕100年記念として2024年に新文・戸津井 康之撮影・服部プロセス20

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