包括的戦略パートナーシップ協定ベトナムにとって外交上、最上位の二国間協定であり、米国のほかに中国・ロシア・インド・韓国、そして同年10月に日本も加わりました。時系列で考えると日本が後塵を拝しています。事実、ベトナムの二〇二二年度の経済関係を国別・地域別でみれば、輸出では①米国・②中国・③韓国・④日本・⑤香港、輸入では①中国・②韓国・③日本・④台湾・⑤米国。対ベトナム直接投資の認可額では①シンガポール・②日本・③韓国・④中国・⑤香港の順位で米国は10位でした(注:統計の詳細はジェトロ参照)。年度ごとに順位変動はありますが、米国との貿易は、ベトナムにとって最重要です。なお私見では、ロシアは旧社会主義国、インドは非同盟諸国またグローバルサウス諸国としての関係をベトナムと維持しています。対中国関係は、対米関係を「進化」とすれば、長い歴史的な「対立と協調」に基づく「深化」と考えられます。ベトナムの発展はアセアン諸国に加えて、これら6カ国との関係を重視・調整しながら進むでしょう。ベトナムにとっての米国大統領選挙ベトナムには中国との南シナ海の領土問題があり、また米中の対立関係が鮮明になっています。これらの政治背景からベトナムと米国が接近したという見解もありますが、すでに両国には経済的に親密な関係が形成されています。ハノイ米国大使館の広報活動(Facebook)に注目すれば、米国大統領選挙の報道が散見されます。現職と前職の選挙戦が想定されていますが、いずれの勝利であっても、対ベトナム政策は変化ないとみなされます。なお、米国の選挙制度の説明もあり、一党独裁のベトナムに対する一種の政治宣伝の意図も含まれているようにも邪推されます。ベトナムと米国の経済関係の展望と日本企業米国への留学生数は二〇二一年~二二年度に出身国・地域別で、①中国・②インド・③韓国・④カナダ・⑤ベトナムとなり、初のトップ5入り(Viet-Jo,2022/11/18配信)。人材面でもベトナムは米国と急接近しています。『ビジネスウィーク』誌の表紙(写真)は、米国の経済制裁解除(一九九四年)前ですが、映画タイトルの引用です。その翌年(一九九五年)に国交回復し、来年が三〇周年。本誌一月号で紹介したビングループを始めFPTなどのベトナム大手企業の米国進出も近年では活発です。米国企業アップルの部品生産に占めるベトナム工場の比重も高まっています。以上のような現状に対して日本はどうするか。その私見を簡単に述べれば、日本とベトナムの二国間ではなく、米国のみならず韓国・中国・台湾を含む多国間のビジネス連携をベトナムのみならずアセアン全域で進めることです。こういった構想が実現できる経済リーダーシップこそが日本に求められています。■上田義朗(うえだ よしあき)流通科学大学名誉教授日本ベトナム経済交流センター副理事長外国人材雇用適性化推進協会(ASEO)代表理事合同会社TET代表社員・CEO躍動するアジア ベトナムと米国の関係 ―最近の動向と展望第7回ベトナム元気ベトナムと米国の関係と言えば、日本人の多くは「ベトナム戦争」(注:ベトナムでは「アメリカ戦争」と呼ぶ)を想起しますが、近年はベトナムと米国の政治・経済関係そして文化交流が良好に拡大中です。その背景には、二〇二三年9月に両国で合意された「包括的戦略パートナーシップ」協定があります。日本の立場だけから見ていると、ベトナムの現状を的確に理解できません。まさに「包括的」な同国の把握が必要です。文・ 上田義朗X出所:筆者所蔵。Business Week, June 22, 1992121
元のページ ../index.html#121