KOBECCO(月刊神戸っ子2024年6月号
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この二つを組み合わせます。ある天体からやってきた光を波長ごとに分析して(スペクトルに分ける)、その「吸収されて欠けた」波長が、本来の波長からどれくらいずれているか、を測定することで、その天体がどれくらいの速度で近づいてきているのか、あるいは遠ざかっているのか、がわかります。アメリカ合衆国の天文学者であるエドゥウィン=パウエル=ハッブルは、さまざまな天体に対してその速度を測定し、それらのほとんどが遠ざかる方向に動いていることを見つけました。そして彼の慧眼は、その速度と、それら天体の距離との関係を求めたのです。図がそのグラフになります。この観測結果に、ハッブルは、気持ちよく直線を引きました。つまり、天体の距離と遠ざかる速度(後退速度と言います)は比例関係にある、という主張です。これを「ハッブルの法則」と言い、彼は一九二九年に発表しました。宇宙は、なんと、膨張しているのです!ハッブルが、このロールシャッハ・テストのような観測結果に気持ちよく直線を引いた理由は、実は先に「膨張する宇宙」という考え方があって、その考えを証明する結果が得られた、ということを意味します。ハッブルの観測では近い天体ばかりでしたのでこのようにばらつきが大きい結果でしたが、のちの天文学者がより遠くの天体を観測するほど、より一層、きれいな直線に乗っていることがはっきりしました。前回お話ししたボールの話をすると、宇宙はまさに「投げたボールがいまだ上向きの速度で上昇している」最中だと言えます。この速度が0になるまでは、重力が「下向き」であっても、ボールは上へと移動します。「まだ落ちてこない」のです。さて、この観測結果を基に、未来と過去について考えてみましょう。未来では、天体はもっともっと遠くにいって、広がっていくはずです。少なくとも速度が0になるまでは。では、過去はどうか。それぞれの天体はもっと近かったはずです。それをさらにずっと過去まで辿っていくと││天体はくっつき合うくらい近かったと考えられます。もっと言うなら、宇宙の天体、あるいは宇宙の物質のすべては、一箇所に集まっていたことになります。では、宇宙のすべての物質が一箇所に集まっていたとしたら、そこではどんなことが起こるのでしょうか。次回はそれについて考えてみます。PROFILE多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。66

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