KOBECCO(月刊神戸っ子2024年6月号
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が、自由気ままな作風に観客は集まらないので金が儲かる映画を作り出した所為だろうか。お金を払って見たのに見終わったらすぐに忘れてしまう話が多く、映画館を出る度に後悔していた。そして、掴みどころのない“混沌”の時代がすでに始まっていたのだ。社会の景気はどうだったんだろう。バブル崩壊という言葉を耳にするのもまだ先のことだが、ブランド品を身につける趣味はないし、土曜日に人気のディスコで踊る人間でもない1990年。世の中では何が起きていただろう。映画ばかり見て暮らしていたから、これといったことはあまり憶えていない。ソ連とアメリカの冷戦が終わり、モスクワの街にはマクドナルドの店が開店し、大勢の市民が列を作っていたニュースはテレビで見たように思うが。でも、ハンバーガーというアメリカの味がボクにはもう感動的でなかったように、街で封切られるアメリカ映画に人生を揺さぶってくれる物語は見つからなかった。ハリウッドの夢の工場たちし、ボクの生活は相変わらず、退屈と鬱屈感が同居する日々だった。そんなことを吹き飛ばしてくれるものとは何だろうか。憂さを晴らして、ボクに明日を生きる気力をくれる、ガソリンタンクみたいな大衆映画はどこに消えたんだ。空虚な心を満たしてくれる映画を探し回っていたように思う。この年の2月、ローリング・ストーンズが初来日したと雑記帳メモにあるが、東京ドーム公演に行ったわけではなく、ボクにはもう刺激がなかった。前年井筒 和幸映画を かんがえるvol.39PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。50

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