KOBECCO(月刊神戸っ子2024年6月号
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を世界で一番たくさん触ったのは私じゃないかなと思いますが、経験だけではだめで、医療は進歩のスピードも速いですから勉強もし続けないといけません。久利 資格取得がゴールではなくスタートというのは、マイスターも同じことです。弟がマイスターになったお祝いに、鴨居玲さんに絵を描いてもらったんです。男がバンジョーを弾いている絵ですが、この男は街角で弾いていくらかお金をもらっている。一方で、カーネギーホールでスポットライトを浴びながら弾いている男もいる。マイスターは快挙だ。おめでとう。しかし、紙一重の恵まれない人間が後ろにいるということを、この絵を見て理解してほしいと。そしてこれからがスタートで、決して楽しいことだけじゃないよと伝えてくれたのですよ。鴨居玲から学んだこと─鴨居さんとの思い出話は尽きませんね。久利 最初にいただいた手紙は、今も大切に持っています。大学入学前、店のカウンターに座っていたんです。当時は数坪の小さな店でした。そこに背の高いスラッとした人が、異様な雰囲気でしたけれど入ってきて。それが玲さんだったんです。僕のところに来て「ここんとこちょっと削ってくれ」って。玲さんは慌て者なので、店にいるからプロだと思ったのでしょう。そんなことしたことないけど、父も店員も接客中だったので、しょうがないから一生懸命ヤスリで削ったんです。後日、粗末なレポート用紙に「おたくの若い方の一生懸命が、大切なことだと思います」と書いて不世出の画家・鴨居玲さんとの出会い、多くの言葉が久利さんの原点となっている38

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