KOBECCO(月刊神戸っ子2024年6月号
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墨すみつぼ壺は長い直線を正確かつ簡単に引くための大工道具です。墨汁をたくわえた壺に糸を通し、糸車で巻き取るつくりで、糸を引っ張りながら真上に持ち上げ、パンとはじくと、表面に真っ直ぐな墨線が残ります。多少の凹凸にかかわらず正確な線が引けるので墨付仕事には欠かせません。墨壺はその造形が魅力の一つです。日本の大工道具は機能優先で彫物などの遊びを入れることは稀まれなのですが、この墨壺だけは遊んでいるものが多いのです。美しい流線型をもったもの、奇抜なモチーフを採用したもの、巧みな彫物を施したものなど、さまざまなバリエーションがあります。他の刃物系の道具と異なり、大部分が木のため、昔は大工が自作していたことが理由の一つとされます。ときには現場に持ち込む墨壺の出来栄えで大工の腕が判断されることもあったといいます。明治になると専門の彫物師が製造するようになり、縁起物の鶴と亀を遊びのある道具さまざまなバリエーション。中央上にあるのが定番の鶴亀型―墨壺の魅力竹中大工道具館邂逅―時空を超えて第九回14

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