KOBECCO(月刊神戸っ子2024年6月号
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■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会員。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。ての報告文。といっても足立先生が書くものだから無味乾燥なリポートではなく、人間の血脈が通った文章である。こんな場面がある。《吉村さんはひとりごとを言う。「ホウホウ、ひどいな、これは…これ全部だめ…ウワー、むちゃくちゃだ。これ見てごらん、全部腐ってる…」吉村さんはそれから間もない五十二年十二月九日、癌性腹膜炎のため世を去られた。それにも感慨を覚えずにはいられない。》足立先生ではもう一つ思い出すことがあった。南大門を舞台にした「石の犬」と題する散文詩があり、先生自身がそれを朗読する音源をわたしは所持しているのだ。先生は決して美しい声ではない。どちらかといえばしわがれ声といってもいいだろう。ところがこれが味があっていいのだ。淡々と朗読するだけだが、しみじみと心のうちに届く。《東大寺南大門に、伊行末という宋から渡来した石工が彫った一対の石の犬があるというので見に出かけた。(後略)》このあと渡来人のドラマチックな運命を想像させて朗読は終わる。文実のリクエストにより、思わぬ奈良散策となり、足立先生の声にも久しぶりに触れることができた。ありがとう文実。さて文実のこれからはどうだろうか。決して平坦な道ばかりではないだろうが、ジイにはあの神秘的な風貌をした阿修羅が、文実を陰から見守りながら、ともに歩む姿が見える。(実寸タテ10㎝ × ヨコ15㎝)115

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