KOBECCO(月刊 神戸っ子)2024年4月号
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話と、あまりに次元がちがうので、思わずふき出してしまった。しかしこの、体をぐっと後へ引いて、地球全体を視野に入れるという姿勢は、小松サンという人を象徴しているようである》田辺がこう親しみをこめる小松サンは、自身の青春をかなりネガティブに振り返っているが、その素晴らしさも謳歌していた。《…一方では、途方もなく無責任で、間がぬけていて、ムチャクチャで、ばかばかしくて、素頓狂で、おかしいものである》と。ムチャクチャで素頓狂?まさしくこれは小松たちSF作家が、文学の新たな裾野を切り拓こうと挑み続けたSFのキーワードではないか。彼が遺した膨大な作品群に込めた奇想天外なアイデアの源泉、その奥に込めた地球の未来を憂う魂は、やはり多感な青春期に培われたに違いない。=終わり。次回は映画監督、大森一樹。(戸津井康之)くことだった。この話を〝落ち〟まで読むと驚かされる。《実は、その妹の方が、後に私の女房になる寿美花代だったんですがね》宝塚歌劇団の男役で活躍後、高島と結婚した寿美花代のことだ。高島と同じく小松も彼女のことが好きだったのだ。そのことを高島は当然、知っていたはずでこう綴っている。《それで、小松よく言うんですよ。この人(私の女房のこと)いったいだれと結婚するんやろう、なんて、まるで女王様のように彼女のことを見ていたんですが、私と結婚してしまって夢が破れたなんてね。まあ冗談ですが》決して冗談ではなく小松は本気だったに違いない。次元の違うアイデア前回、この連載で紹介した作家、田辺聖子も、この「やぶれかぶれ青春期」の中にエッセーを寄せている。《この正月、新聞を読んでいると、各界の名士がそれぞれ、これからの日本についてのいろんなプランやデザイン、更には期待、要望などを述べていられた。新年恒例の企画読物である》小松と仲が良かった田辺のエッセーのタイトルは「小松左京サンについて」。《…道徳的に人心をたて直す、軍縮をする、あるいは政治家の自覚をうながす、などと、それぞれ適切な名論卓説が並んでいる》と名士たちの持論を紹介し、いよいよ小松の登場だ。《そうして、その一隅に、われらの小松左京氏も語っていた。なんと、彼は日本どころか、これからの地球の話をしているのだ。地球全体としての認識を深め、地球の管理機構を作ろうと提唱しているのである》2024年の今。ロシアとウクライナ、イスラエルとパレスチナなど世界各地で戦争・紛争は続き、環境問題は深刻化し、世界各地で自然災害は絶えない。将来、地球規模で取り組まなければ解決しない、人類が突きつけられる事態を彼は予測し憂いていたのだ。《私は、ほかの人と小松サンの143

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