KOBECCO(月刊 神戸っ子)2024年3月号
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に分けて考えてみます。第4回で、クォークとは強い力が働く素粒子、レプトンはそうではない素粒子だという話をしました。まず、クォークについて、標準理論の枠内で、このCP対称性を説明する理論を考え出したのが、小林誠先生と益川敏英先生です。その理論はそのまんま、「小林・益川理論」と呼ばれます。この理論では、それぞれのクォークは完全に独立した粒子ではなく、互いに少し「混じって」いて、しかもそれが三世代分計六種類あった場合に、CP対称性の破れが起こりうる、ということが述べられていました。第4回でお見せした一二種類の素粒子の表は、さも当然のように示しましたが、実はこの小林・益川理論以前にはなかったものなのです。この理論が発表された時点で発見されていたクォークは、アップ、ダウン、ストレインジの三種類だけでした。しかしこの理論は大胆にもさらに三つのクォークが必要であることを述べ、そしてその後、実際に残りの三つのクォーク(チャーム、トップ、ボトム)が発見されました。小林・益川理論が発表されたのは一九七三年、益川先生は三〇代前半、小林先生に至っては二〇代の若さでした。しかしお二人がノーベル物理学賞を受賞されたのはそれより三五年後の二〇〇八年です。なぜか。理論というのは、いうなれば「言ったもん勝ち」であって、実験で証明されなければ本当かどうかわからないからです。この理論通りにクォークは計六種類発見されましたが、決定的となったのは、我々高エネルギー加速器研究機構が一九九九年から始めたBelle実験で、複数のクォークで構成されるB中間子と反B中間子との間でCP対称性の破れ(壊れ方が異なる)を発見したことでした。この成果により、小林・益川理論はその正しさを証明され、お二方はノーベル賞を受賞されたのです。余談ですが、僕が学生の頃、益川先生は京都大学理学部で現役の教授であり、僕は講義も受けたことがあります。また、僕が高エネルギー加速器研究機構の素粒子原子核研究所に着任したとき(二〇〇四年四月一日)には、小林先生は同研究所所長で、僕は小林先生から辞令をいただきました。クォークについてはこのように説明がついたとして、レプトンではどうでしょうか。それについては次回お話しします。PROFILE多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。66

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