KOBECCO(月刊 神戸っ子)2024年3月号
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前回は、「我々はなぜ存在しているのか」につながる、物理学最大の謎についてお話ししました。フィクション作品であれば謎は謎のままにしておいてもよいのですが、現実の世界ではかならず解き明かさねばなりません。なぜなら、それこそが我々物理学者の使命だからです。我々の世界の仕組みを説明する理論体系として、標準理論なるものがあります。これはひとつの理論ではなく、これまでに人類が理論や実験や観測によって得てきた知見を積み上げてできた体系で、この世界で起こる現象をほぼ完璧に説明できています。これまでこの連載でお話ししてきたのも、それに沿った話でした。「ほぼ」というのは、前回お話しした、物質と反物質の非対称性がそのままでは説明できないからです。このようなときに、「では、標準理論は間違っているのだ、新たな理論体系を一から構築しなければならない」と考えるのは早計です。なぜなら、この非対称性以外のことを、標準理論以外に完璧に説明できるものは他にないからです。であれば、標準理論多田先生!ニュートリノと 宇宙のはじまり教えて 連載〜第9回〜 対称性の破れを説明する理論と実験宇宙のはじまりとは―。最初に存在した最も基本的な物質、つまり素粒子を組み上げて恒星や銀河系をつくり、宇宙は出来上がったと考えられています。素粒子のひとつニュートリノを研究することで、なぜ宇宙の始まりが解明できるのか、この連載で素粒子物理学者の多田将先生に教えていただきます。64

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