KOBECCO(月刊 神戸っ子)2024年3月号
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な探偵の話だ。このページには「クロンネンバーグ監督の『ザ・フライ』(87年)のプロデューサーのアホなパーティーに行く」とメモもある。ロサンゼルスに行った時に街の雰囲気に気圧されて帰ってきた後のようだ。この頃は繁栄の裏側を暴くような映画の想を練っていたのかな。乾いた台詞と銃弾が飛びかう探偵モノを作りたかったのかもだ。邦画界でそんなアメリカンなものが成り立つはずもないのに。メモにある「アホなパーティー」の話だが、そのB級ホラーのリメイクでひと儲けした製作者の邸宅でのハリウッド流パーティーに知人と紛れ込んだことがあった。広い庭のテーブルにワインポンチや料理が並び、よく見るとチキンの唐揚げとフライドポテトだけだったが、奥からスイングバンドの生演奏が響き、青い光のプールには水着の女たちが戯れていた。自称女優、プロデューサーもどき、無名ライターたちがグラス片手に談笑し、そこはハリウッドの虚栄そのものだった。そして、ボクは日本で何をしてきた人間かさえ解らなくなるような、そんな虚飾の世界に迷い込んでいたのだ。ノートには邦画よりアメリカ映画が多い。やはり、ハードボイルドなものを模索していたのかな。人物の心情描写よりも戯れ言のかけ合いをするうちに劇的な事が次々に起こる映画が、自分には一番合っていたようだ。『ゴッドファーザー』(72年)でマフィア一家の顧問弁護士役で世界中に顔を知られたロバート・デュバル主演の『組織』(73年)は今でも色褪せない逸品だ。小説の「悪党パーカー」シリーズの映画化で、刑務所から出た主人公が牧場主の兄を殺した組織に復讐に行く話だ。義理堅い仲間役のジョー・ドン・ベイカーも存在感があった。哀れな情婦役のカレン・ブラックもいい。組織のボス役は重鎮ロバート・ライアン。くたびれた感じの悪党はお手のものだ。昔の三國連太郎さんの感じだ。そして、彼らを捌くのは鬼才ジョン・フリンだ。気が晴れないボクの心を必ず挽回させてくれる監督で、ベトナム戦争の帰還兵のこれまた敵討ちの話、『ローリング・サンダー』(78年)も彼の入魂作だった。これに出演した武骨な帰還兵役が若き日のトミー・リー・ジョーンズだ。まさか、彼も売れない頃にハリウッドの3流パーティーに乱入してたのかな…。その後の『歌え!ロレッタ愛のために』(81年)ではカントリー歌手の夫で心優しい炭鉱夫役も実にハマっていた。ノートを捲っていると当時の気分に戻っていた。この頃もこんな風に好きな作品や俳優を連想しては、片っ端から見直していたんだろうな。今月の映画●『陸軍残虐物語』(63年)●『動く標的』(66年)●『ローリング・サンダー』 (78年)●『歌え!ロレッタ愛のために』 (81年)47

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