KOBECCO(月刊 神戸っ子)2024年3月号
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りだ!終われ!007にもう用はない!自由だ!映画を作れ!」と詩も書いてある。新時代を歓んでいたようだが、なんて幼い文章だろ。そして、ノートには観ていた昭和時代の映画タイトルが何十本も記してある。次に撮りたい映画を構想していた頃だから、片っ端から旧作をビデオで見てヒントを得ようとしていたのだ。11才で初めて父親と一緒に観た『陸軍残虐物語』(63年)もメモにある。これはボクの大人映画への入門作だった。拙1989年。年が明けてすぐに、「昭和」が終わり、「平成」と年号が変わったその年に使っていた“映画は夢”と表に書かれた大学ノートが手元にある。「映画は朝方に見る夢だ」などと誰彼に語っていたことだ。35年前のメモが懐かしい。当時の自分がいる。日本では株価が史上最高値を記録し、世界も時代の転換期でその秋には東西ドイツを分断していたベルリンの壁が市民の手で崩壊した。ノートには「こんな急に世界が変わるんだ。米ソ冷戦は終わ作『犬死にせしもの』(86年)に出てくれた西村晃さんが根性悪の軍曹役で軍隊組織の冷酷さ非情さを全身で演じた、とても忘れ難い衝撃作だ。でも、こんなものをなぜ見直したのかな。テレビで「水戸黄門」を演じていた西村さんと京都駅のホームででも会ったからかな…。そこまでは書いていないが。中学時代に観た作品もたくさん見ている。『動く標的』(66年)、さらに『新・動く標的』(76年)とある。ロサンゼルスが舞台で、ポール・ニューマン主演のタフ井筒 和幸映画を かんがえるvol.36PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。46

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