KOBECCO(月刊 神戸っ子)2024年3月号
107/148

―黒田先生は日本の内視鏡外科手術黎明期から携わってこられたのですね。日本で初めて腹腔鏡手術が行われたのが1990年、その翌年の91年、私は出張先の病院で腹腔鏡下胆嚢摘出手術を経験しました。その後、92年に異動した近畿大学第2外科で内視鏡外科手術を任されました。当初は「なぜ窮屈な思いをしながら小さな孔から手術をしなくてはならないのか?」というのが外科医の印象でした。ところが、開腹手術後の胆石患者さんはしばらく食事も取れず1週間ほど入院が必要だったのですが、腹腔鏡手術では翌日から歩いて食事も取り3日程度で退院できる。「これは患者さんにとって非常にメリットが大きい革命的な方法かもしれない」と思い始め、advanced surgery(次世代の手術)としての胃、大腸、食道、膵臓などの内視鏡外科手術にも取り組みました。―その後も共に歩んでこられたのですね。2005年、内視鏡外科手術の責任者として神戸大学に帰学しました。私は元々大学では食道がんの研究チームにいましたので、過大な侵襲を加える食道がん手術を内視鏡で行えば患者さんの負担が軽減できるのではないかと食道がん手術で技術認定医を取得し、内視鏡手術の発展、後進の指導・育成に努めました。―続いてロボット支援手術の時代になったのですね。2009年に手術支援ロボットdaVinciが薬事承認され、神戸大学でも11年に胃がん、12年に食道がんに対してdaVinci Sによる手術が行われ私もオペレーターとして携わりました。13年、北播磨総合医療センターへ異動になり、そこでもdaVinci Si、続いてXiを導入し、多くの技術認定医、プロクター(手術指導医)を育成し、指導・監督を含めると250例以上のロボット支援による消化器手術を経験しました。―内視鏡外科手術とロボット手術の違いは?原理は同じです。お腹や胸の中を炭酸ガスで膨らませてワーキングスペースを作り、カメラと鉗子を入れてモニター画面を見ながら行います。違いは鉗子の動かし方です。腹腔鏡・胸腔鏡手術では手元で動かす長さ30~40センチの鉗子は直線的な動きしかできず限界があります。多関節機能を持つロボットは裏側に回り込むような動きも可能で人間の手のように自由自在です。サージョンコンソールという機械にオペレーターが頭を入れると目の前にお腹や胸の内部が広がっているかのような画像が高精細な3D画面に映し出されます。手元の機器を指で操作すると指先が鉗子になり、直接触りながら手術を行っている感覚です。内視鏡手術だけでなく開腹手術よりも臓器との距離が近く、精緻な手術を行うことができるようになりました。107

元のページ  ../index.html#107

このブックを見る