KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2024年2月号
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の核出力の二・七倍です。では反物質が地球ではない宇宙のどこかにあるのかというと、それも観測によって否定されています。宇宙には、物質だけがたくさんあって、反物質はほとんどないのです。もちろん、我々が実験装置でつくり出せるように、天体の様々な活動によって生み出されはしますが、それは宇宙全体の物質の量よりはるかに少ない上に、我々の身の回りにある物質のように宇宙の初期に大量につくられたものとは明らかに異なります。物質と反物質が対生成でしか生まれない以上、少なくとも現在の物質の量と同じだけの反物質が、ある段階では存在したはずです。その反物質はどこに消えたのでしょうか。ここで、興味深い観測結果があります。現在の宇宙における、光と物質の比です。これは、光:物質が、一〇億:一であることがわかっています。これは何を意味するのでしょうか。現在のところ、宇宙の初期には物質と反物質が一〇億一個と一〇億個の比で存在して、うち一〇億ペアが対消滅を起こして一〇億の光となり、そのペアに対して一個の物質が残った、と考えられています。その「残りもの」が、現在の宇宙の様々な物体を構成する物質なのです。つまり我々は「ペアになれなかった残りもの」なのです! なんと残酷な話でしょうか…今のところ、それが宇宙初期のシナリオだと考えられていますが(それ以外考えられないため)、ここでも大きな問題があります。すべての物質と反物質が対生成によって生まれたなら、その数は厳密にまったく同じはずであって、一〇億分の一のアンバランスさえも許されない、ということです。生まれた瞬間は絶対に同じ数でなければならないのです。そしてそのあとで何らかの仕組みで一〇億分の一のアンバランスが生じた、ということです。ところで話は変わりますが、現在、日本の人口は、男女それぞれいくらぐらいだと思いますか。ぐぐってみると、二〇二二年一〇月一日の時点で、男性六〇七六万人、女性六四一九万人と、女性のほうが六パーセントも多いです。一方、出生数だと、ここ何十年間も、男性のほうが女性よりも五から六パーセントも多いのです。なぜ、男性のほうが多く生まれているのに、人口比率では女性のほうが多くなるのでしょうか。これに対する答えはわりとかんたんで、「女性のほうが寿命が長いから」です。だとしたら、物質と反物質(粒子と反粒子)のアン69

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