KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2024年2月号
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バート・デ・ニーロ。この役者が出るものは演出の勉強にもなる。欠かさず見てきた。『キング・オブ・コメディ』(84年)という、漫談ショーで有名になりたい偏執狂が巻き起こす誘拐騒動劇も傑作だったし、イタリアの20世紀史を描いた5時間余りの長編、『1900年』(82年)をカレーパン一個とコーヒーで一心不乱に見たこともあった。『ミッドナイト・ラン』はとても爽快で、観終わっても気分が良かった。保釈後に逃亡した容疑者を捕まえにアメリカ中を駆ニューヨークでのテレビ番組のロケ仕事も終わり、一息ついてるうちに、88年も年の瀬を迎えていた。でも、ボクはいっぱしの映画監督でございという顔で街を闊歩していたわけではない。次回作のネタが見つからず、何を作ったらいいのか、井上陽水の歌じゃないが、カバンの中も机の中も探したけれど何も見つからないし、発想が枯渇したか、映画渡世そのものに悩んでいたようだ。その年末に観たのが『ミッドナイト・ラン』(88年)だ。主演はロけ回るバウンティハンター(賞金稼ぎ)に扮したデ・ニーロは役になりきっていた。そんな職業がアメリカにあるのも初めて知った。彼は元刑事の設定だ。役者が役になりきるには技がいる。彼は刑事も未経験だが、見事にこなしていた。敵のシカゴマフィアやFBI捜査官の役者陣もマヌケな役柄を競い合っていた。デ・ニーロが別れた妻と娘が暮らす家に金を借りに立ち寄り、娘が「この貯めたお金を使って」と差し出すと、彼が「いや、それは貰えないよ」と断って井筒 和幸映画を かんがえるvol.35PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。54

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