KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2024年2月号
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まって、「あれ?何これ、おもろいやん。えっ?こんなんなん?」。吉本新喜劇を1人でやってる!?「おもろいやん、落語!」。人生が変わったんですよ。子どもが新しいおもちゃをもらった感じと似てますね。 それから枝雀をドワーッと聞いて、十代目馬生、志ん朝、談志…。Q.初めての人へのおすすめは、枝雀さん? いいえ(笑)。志の輔さんの『緑の窓口』と『親の顔』。まずは、落語って古臭いものじゃない、おじいちゃんのものじゃないって知ってほしいから。きっともっと聞きたくなるから、枝雀はそれからかな。 Q.東野さんのアドバイスも的確でしたね。 あの人って、真実の人なんです。嘘を言わない。若い時から。30年近い付き合いになりますけど、いつも冷静に的確に本当のことを言う。 僕に落語を勧めたのにもちゃんと理由があって、歌が上手い、音感とリズム感がある、演技ができる、そんなことを言われました。実際やってみると、どれも落語に必要な力なんです。 嬉しいことがあってね、円広志さんが寄席にきて褒めてくれたんです。「お前は声がええ。お前の声は泣き声やねん。泣き声は人情噺でグッとくる」。 これって、落語が僕に合ってるってことでしょ。嬉しかったなぁ。Q.40歳で別の世界に入っていく。難しいことですよね。 稽古って何百回もやるんです。何百回もやらないとできない。辛いですよ、できないんですもん。でもそれがね、嫌じゃない。嫌どころかもっと稽古しなくちゃって思うんです。それで気がついた。僕って真面目なんだ! 子どもってゲームに夢中になる、放っておいたら何十時間でもやるでしょ。ゲームに対して真面目です。それ、今の僕にとっての落語です。好きだから何時間でも真面目にやれる。僕は落語が好きなんです。 妻の言葉も背中を押してくれました。「こんにちは~、おぅこっち入り~」。毎日毎日家で稽古するのを聞いていたのは妻です。その妻がある時、「もう大丈夫」って。何も不安なく、落語の道に来ることができました。Q.師匠は月亭八方さんですね。 吉本興業の先輩で、友だちの八光君のお父さん。何百年も代々守り続けてきた芸能の世界での師匠だけど、難しいことは言わず、ちゃんと受け入れてくれました。 落語家という職業に就きたいのは、お金がいっぱい欲しいとか、有名になりたいからじゃない。やりたいという気持ちだけだったので、『月亭方正』の名前をもらって堂々と仕事ができる。それだけでありがたいと思っています。Q.あらためて、方正さんが思う落語の魅力とは。 処世術をおもしろおかしく学べるところです。知命の年。今のこと。28

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