KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2024年2月号
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愛され続ける小説作家、田辺聖子は大阪市内で三代続く老舗の写真館で生まれ育ったが、神戸市兵庫区の開業医と結婚後、生田区諏訪山の洋館や、養父が亡くなった後は総勢十一人の大家族とともに兵庫区荒田町で暮らした。38歳で結婚してからの神戸暮らしだったが、神戸への思い入れは特に強かったようだ。それは、神戸の名所などが小説の舞台として数多く登場することや、エッセーの中などでも度々、神戸の自然や街並み、文化などが取り上げられていることからも分かる。田辺の代表作の小説の一つに「ジョゼと虎と魚たち」(角川書店)がある。1984年に「月刊カドカワ」で発表されて以来、何度も映像化されてきた人気作だ。最初に映画化されたのは2003年。自分のことを〝ジョゼ〟と呼ぶ足の不自由なヒロイン、山村クミ子に池脇千鶴を、クミ子と親しくなる大学生、恒夫に妻夫木聡を配役。若手実力派の〝競演〟が話題を集めた。おっとりした独特の話し方で関西弁を使う個性的なジョゼを大阪出身の池脇が、奔放な性格のジョゼに振り回される恒夫を妻夫木がそれぞれ熱演。田辺が活字で描いた昭和の世界観は平成になっても色褪せないことを証明、映画は大ヒットした。それから17年後。2020年、今度は劇場版アニメとなって公開され再び話題に。声優も注目された。ジョゼの声を大阪出身の清原果耶が、恒夫の声を中川大志が演じ、こちらも大ヒット。アニメ版では神戸市の須磨海浜公園も登場。二人がデートへ出かける印象的な場面として描かれ、公開後、国内外のアニメファンが訪れる聖地巡礼の名所として人気が定着した。さらに、2021年、韓国映画としてリメイクされた実写映画が日本で公開された。田辺が構築した世界観は、昭和から平成、令和へと語り継がれ、時も国境も超えながら多くの人々の心を魅了し続けている。エッセーで綴る神戸への思い田辺はエッセーにも力を注いでいた。「歳月切符」(集英社文神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~㊻後編田辺聖子世界のモードは神戸がリード…未来に期した壮大な夢146

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