KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2024年2月号
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ない。そこで、城崎観光協会へ電話して尋ねてみることにした。若い女性が出て、事情を説明すると「しばらくお待ちください」と。そりゃそうですよね。ずっと昔の詩人の情報なんて若い人が知るわけない。やがて、「城崎國際アートセンターの向こうです」との答え。「いや、その辺り探したんですけどね、ないんですよ」 「清嵐亭という旅館の前にあるはずですがねえ」とのこと。しかし清嵐亭という情報をわたしは持ってなかった。ネットで詳しく調べておけばよかったのだが、簡単に見つかると思っていたのだ。スマホの画面はわたしには小さすぎる。その旅館、清嵐亭はあったが、その前はすぐ道路になっていて道を挟んで川が流れており、その向こうは山肌である。詩碑があるようなスペースは見当たらない。清嵐亭は休業中のようで人の気配がなく尋ねることもできない。仕方なく少し離れたところにある「城崎國際アートセンター」で尋ねたが、やはりご存じない。観光絵地図に載っている以上の情報は得られない。田中冬二のことを話してあげると「勉強します」と恐縮しておられた。 その時、わたしのスマホが鳴った。妹さんからだった。「見つかりました」と。なんと「清嵐亭」の玄関脇の軒下にそれはあった。とても詩碑が建つような場所ではない。しかし、迂闊であった。「清嵐亭」の前には違いないのだから。広くはない道はカーブになっている。歩道もない。車に注意しながら見させてもらう。青御影石の碑面は少しも汚れておらず、背後から笹の葉が縁飾りのように覗いている。針金のように鋭く清潔な文字がはっきりと読める。間違いなく田中冬二の字だ。鈎括弧もきちっと刻まれている。思わず中指の腹で撫でた。わたしは冬二との約束をやっと果たせた気がして安堵した。■今村欣史(いまむら・きんじ)一九四三年兵庫県生まれ。兵庫県現代詩協会会員。「半どんの会」会員。西宮芸術文化協会会員。著書に『触媒のうた』―宮崎修二朗翁の文学史秘話―(神戸新聞総合出版センター)、『コーヒーカップの耳』(編集工房ノア)、『完本 コーヒーカップの耳』(朝日新聞出版)ほか。■六車明峰(むぐるま・めいほう)一九五五年香川県生まれ。名筆研究会・編集人。「半どんの会」会員。こうべ芸文会員。神戸新聞明石文化教室講師。(実寸タテ10.5㎝ × ヨコ15㎝)121

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