KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2024年2月号
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今村 欣史書 ・ 六車明峰連載エッセイ/喫茶店の書斎から   田中冬二の詩碑探訪一昨年の本誌3月号と5月号に田中冬二の詩のことを書いた。「城崎温泉」という詩の中の言葉に疑問を持ってのこと。もう一度その詩を上げておこう。飛騨の高山では「雪の中で山鳥を拾つた」といふ言葉がある。/私は雪の中で山鳥を買つた。/可哀相に胸に散弾のあとのある山鳥を/さむい夜半だった。/私はそれを抱へて山陰線の下り列車を待つてゐた。 疑問を持ったのは「雪の中で山鳥を拾つた」という鈎括弧付きの言葉。これにどんな意味があるのだろうか、というものだった。その顛末は本誌HPのバックナンバーからお読みください。その原稿を書いていた時、その詩碑が城崎温泉にあるということを知り、行ってみたかったのだが、コロナやわたしの体調のことがあり断念したのだった。わたしの妻は三人姉妹の真ん中。突然話が変わるがお許しを。三人は仲がいい。妹さんは門真市在住。お姉さんは豊岡市にお住まいだ。その三人が城崎温泉で姉妹会を催すという。昨年晩秋のこと。これはチャンスとわたしも加えてもらうことにした。温泉旅館で楽しい宴を過ごした翌朝である。妻と二人で詩碑を探訪する積りだったが、四人で一緒に行くことになった。わたしは城崎温泉の観光絵地図(志賀直哉や富田砕花など多くの文学碑が記されている)を用意していたのだが、冬二の詩碑は温泉街を抜けた外れにある。歩いて行くには遠い。そこでお姉さんの車で行くことになった。わたしは助手席に乗せてもらっていたが、「あっ、過ぎたんちゃう?さっきの場所、気になる」。Uターンしてもらって行くと広場があり、奥の方には築山があって自然石が形よく配置されている。いかにも詩碑がありそうな場所だった。背景には松とモミジが鮮やかなコントラストで紅葉を引き立てている。そこに陽があたって見事な光景だった。城崎温泉にこんなに静かでいいところがあったとは。しかし、いくら探しても冬二の詩碑は見つから120

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