KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2024年1月号
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BABさんがAさんに金を貸す-m貸付粒子+=-m貸付粒子+=0+m借金粒子-m貸付粒子+=0+m借金粒子BAAさんがBさんに金を借りる+m借金粒子+=となります。では実際の現象ではどうなるのかというと、粒子と反粒子、たとえば電子と陽電子をくっつけると、0、つまり消滅してしまいます。ただしエネルギー保存則は成り立たねばなりませんので、反応前に両者が持っていたエネルギー(質量と運動エネルギー)を合算した分のエネルギーを持つ光となります。この現象を「対消滅」と言います。粒子と反粒子のペア(対)だからこそ消滅する現象だからです。PROFILE多田 将 (ただ しょう)1970年、大阪府生まれ。京都大学理学研究科博士課程修了。理学博士。京都大学化学研究所非常勤講師を経て、現在、高エネルギー加速器研究機構・素粒子原子核研究所、准教授。加速器を用いたニュートリノの研究を行う。著書に『すごい実験 高校生にもわかる素粒子物理の最前線』『すごい宇宙講義』『宇宙のはじまり』『ミリタリーテクノロジーの物理学〈核兵器〉』『ニュートリノ もっとも身近で、もっとも謎の物質』(すべてイースト・プレス)がある。数式は逆にしても成り立ちますので、0 = (-m) + (+m)となります。正負両方の大きさがmで同じですからこれは成り立ちますよね。実際の現象ではどうなるかというと、これも式の通り、何もないところから、粒子と反粒子が生まれます。重要なことは、ここでも必ず粒子と反粒子のペアであることで、たとえば電子だけとか、電子と反ミューニュートリノとか、そういった組み合わせは生まれないことです。これも式を見れば当然であることがわかります。そして、「何もないところから」とは言いましたが、それは物質がないという意味であって、やはりエネルギー保存則から、新たに生まれた粒子分のエネルギーは必要です。この現象を「対生成」と呼びます。我々人類が素粒子を生み出す場合もこの方法を使います。そしてより重要なことは、自然界に存在する物質も、全て、こうやって生まれたのです。何もないところから物質が生まれるには、これ以外の方法がないのです。72

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