いうこと?」と疑問に思われた方は、僕のこの連載をちゃんとお読みいただいている方です。ありがたい限りです。さきほど「電荷『など』」と言ったのは、実は電荷以外にも逆になっているものがあるからです。それはスピンです。スピンの概念は難しいのですが、ここでは、名前の通り自転のことだと思っておいて下さい。自転には、粒子によって決まっている回転の速さ(正確には角運動量)と、回転の向きがあります。素粒子はじっとしておらず必ず動き回っていますので(原子核の中のクォークですらそうです)、その動く進行方向に対して、左回りの回転(左巻きと言います)か、右回りの回転(同じく右巻き)かがあります。そして、粒子と反粒子とでは、回転の速さが同じで、向きがちょうど逆向きになっているのです。たとえば「左巻きの電子」の反粒子は「右巻きの陽電子」で、「右巻きの電子」の反粒子は「左巻きの陽電子」です。そして、電荷のないニュートリノにもスピンはありますので、反粒子はあります。たとえば「左巻きの電子ニュートリノ」の反粒子は「右巻きの反電子ニュートリノ」です。面白いことに、ニュートリノには右巻きのものはなく、全て左巻きです。そして、反ニュートリノは全て右巻きです。この反物質(反粒子)がいったいどういうものかを考えるために、ここではひとつ、下世話な話ではありますが、借金の話をしてみましょう。「AさんがBさんから借金をする」とします。これはあまりよくない話ですね。まるでAさんがお金にだらしないみたいです。そこで、「BさんがAさんにお金を貸す」と言い方を変えてみましょう。どうですか、美談に聞こえるでしょう。Bさんがいい人のような。でも行われていることは全く同じなのですがね。この両者を、式にしてみます。まず、「BさんがAさんにお金を貸す」は、B + (-m) = Aです。mはmoneyのmですが、Bさんは貸し付けることで所持金が減るので(-m)と負になっています。一方、「AさんがBさんから借金をする」は、Aさんの所持金が増えることから、B = A + (+m)となります。この両者が「言い方の違い」だけで実は同じ式で、また、mが左辺から右辺に移動するときに正負が逆転しているが、mの大きさは同じことがわかりますね。正負の逆転はAさんから見たかBさんから見たかによる立場の違いによるものですが、量は同じです。Aさんが借りた額とBさんが貸した額が違っていると揉め事になってしまいます。このとき、たとえば(-m)を「貸付粒子」、(+m)を「借金粒子」と名付けたとすると、この「貸付粒子」と「借金粒子」の関係が、粒子・反粒子の関係となるのです。つまり「同じものを逆の立場で見ているに過ぎないので、ちょうど正反対になっている」ということです。そして、このmの大きさが、電荷量や回転の速さ(角運動量)に当たります。これをもとに、こんなことを考えてみましょう。この貸付粒子と借金粒子をくっつけてみます。すると、数式の上では、(-m) + (+m) = 071
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