KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2024年1月号
51/148

ボクの仕事現場をテレビカメラが追うという内容だった。先ず始めたのは、その衝撃の3分間を演じてもらう役者のオーディションだ。制作会社が方々に声をかけ、素人さんや演劇研修生ら有志が二十人余り来てくれた。近くにニューヨーク大学もあり、アーティストが住む地区だし、“タクシードライバーの撮影”と聞いただけで集まったのだ。デ・ニーロ扮するベトナム戦争帰りの青年トラビスは、ラストで少女娼婦とヒモ男とやくざ者が巣食うアパートに乗りこむ時はモヒカン刈り頭に豹変していた。有志の一人に「頭は剃れる?」と訊くと「ノー」と言って帰ってしまったが、次の、デ・ニーロには程遠いがちょっと思いつめたような顔つきの青年が「モヒカンOK!」と言うので、彼に決めた。相手役の怪優ハーヴェイ・カイテルが演じたヒモ男は、演劇学校の学生君が意気込んで本編の台詞を全部覚えてきたようでリアルに喋ってくれたので選んだ。ジョディ・フォスターが演じた少女娼婦アイリス役はモデルをしている白人女性に決めた。トラビスがアイリスの部屋に現れるまで、女は男と一緒に卓袱台でお茶漬けを食べてるという場面を作りたかったので、オーディションで白人女性に納豆を箸で食べさせたのは初めてだが、彼女に挑戦してもらった。すると、彼女は「オーマイゴット!」と叫びながら意地でも食べてくれたので、彼女のそのヤル気に感謝して、役に選んだのだった。思いがけない所にも行けて昂奮した。デ・ニーロが場面で撃ち放った何種類もの銃を取り揃えたガン専門の小道具屋だ。担当者が本編に提供したのと同じ型を見せてくれた。アメリカには空包弾を装填した本物そっくりの銃を扱うガンプロップというスタッフがいる。「私たちがあのラストを作ったんだ」と言い、「ニューヨーカーならあの場面は誰でも知っているよ」と誇らしげだった。当時のロケで使ったアパートのすぐ近くの建物で撮影した。M・スコセッシ監督のカットを思い浮かべながら撮った。でも、モヒカン君やヒモ男やアイリスには憶えたての関西弁の台詞を喋ってもらった。どこか吉本新喜劇みたいだったが、何発か銃を撃った後、モヒカンには「殺したる!」と何度も叫ばせ、アイリスには「もう止めて!たのむわ!」とツッコミを入れさせて、『タクシー・ドライバー‘88』の狂乱のラストを深夜に撮り終えた。「これはボクの卒業制作です」とカメラに向いてコメントしたのも覚えている。ニューヨークが舞台のニューシネマはボクの青春を揺さぶったものばかりだ。その断片を自分なりの技量でリメイクしておきたかったのだ。改めて、ここに3本、紹介しておきたい。今月の映画●『ミーン・ストリート』(73年製作)●『真夜中のカーボーイ』(69年)●『タクシードライバー』(76年)51

元のページ  ../index.html#51

このブックを見る