KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2024年1月号
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洋館での新婚生活時代や世代を超え、普遍の人気を誇る作家、田辺聖子(1928~2019年)。生まれ育った大阪や新婚生活を送った神戸などを舞台にした小説を原作に、これまで何度も映画化やドラマ化、アニメ化が繰り返されてきた。彼女が描いた世界観は日本だけでなく近年、韓国で映画化されるなど国境をも超える。この人気の源泉とは…。田辺は1928年、大阪市内で生まれた。実家は祖父の代から続く写真館だった。地元の高校から樟蔭女子専門学校(現在の大阪樟蔭女子大学)へ進学。卒業後は大阪の金物問屋で働きながら、同人誌などに小説を書いていた。そして1964年、「感傷旅行」で芥川賞を受賞し、国民的人気を誇る女流作家となっていく。彼女の波乱万丈の生涯が、NHK連続テレビ小説「芋たこなんきん」でドラマ化され、2006~2007年に放送された。田辺をモデルにした〝遅咲きの作家〟花岡町子を演じたのは実力派の藤山直美。強面(こわもて)の風貌から〝カモカのおっちゃん〟と町子が呼び、エッセーなどにも登場する、後に夫となる開業医、徳永健次郎をベテラン、國村準が演じ、夫婦の関西弁での丁々発止のやりとりが再現され、今でも話題となる人気の朝ドラの一作となった。いうまでもなく〝カモカのおっちゃん〟は、1966年に田辺が結婚した夫、川野純夫さんがモデルだ。小説「お目にかかれて満足です」(集英社)には田辺が新婚時代、神戸の諏訪山の異人館で暮らした頃の日常生活をモチーフにした描写が綴られている。「まるでドラマのような」当時の二人の暮らしぶりが伺え、興味深い。例えば、こんなエピソードが出てくる。《この前、表の木の柵(倒れかけているのを私が起し、白ペンキをていねいに塗ったもの)のあたりを掃除していたら、若い娘が三、四人通りかかって、「あっ、いい家……古めかしい洋館。みて神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~㊺前編田辺聖子神戸へのあふれる思い…異人館生活への愛着は深く142

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