から観なかったのかも。画面展開より勇壮な音楽に引っ張られるまま、デパルマ流の凝ったカットもなく、ありきたりの勧善懲悪劇で終わっていたからだ。捜査官と悪党の銃撃戦はスローモーションカットのオンパレードで勿体ぶっていて乗れなかった。でも、暗黒街のボス猿、アル・カポネに扮したロバート・デ・ニーロだけは別格で、役になり切っていた。彼は語っている。「演じることは自分を表現することで、自分の中にある感情や人格から役柄に合った部分を選び出すことだ」と。彼こそ“役者”だろうな。年が明け、退屈しのぎに観て時を忘れた映画もある。『アンタッチャブル』で凡庸な捜査官だったケビン・コスナーが、『追いつめられて』(88年)ではソ連のスパイ役を生き生きと演じた。彼と恋に落ちるショーン・ヤングも国防長官の愛人で殺される役だが、セクシーで自然な感じが良かった。S・キューブリックの久々の『フルメタル・ジャケット』(88年)はベトナムの戦場で心が空っぽになる米兵たちをスリリングに描く2時間だ。気休めにはならなかったが。春のある日、前年に続いてまた、ニューヨークに出向く仕事を頼まれ、かったるくて刺激のない日常から脱出できると思うとワクワクした。ただ、仕事は映画撮影ではなく、フジテレビの深夜番組ロケだ。撮影には違いないが、ENG(エレクトロニック・ニュース・ギャザリング)システム。つまり、フィルムでなくビデオテープで収録するドキュメント番組で、テレビの演出は一度もしたことがないので、すぐにでも行きたかった。東京の景気だけは上向きでも、ボクは日々、退屈でしようがなかったのだ。痛快無比な冒険映画の一つぐらいあってもよさそうだが、そんなものは見当たらなかったのだ。その深夜番組は「NY者(ニューヨーカー)」という粋なタイトルがついていた。ゲストを連れて行き、日がな一日、当人が日本でやったことがない事をして過ごす30分番組だ。5番街でタコ焼きの屋台を牽くのも良し、ハドソン川を泳いで渡るも良し。何かに挑む姿を追うのだ。制作部が「ゲストは誰にします?」と訊くので、「友人の竹中直人に、昔の彼女が当地に住んでるらしいから訪ねに行かそう」と提案するとすぐに決まった。でも、「制作費の節約でもう一人ゲストを送ります。誰がいいです?」と。 ボクが「時間もないし、この際、オレでどう?自分で自分を撮るわ。『タクシードライバー』のラストシーンを再現したい」と言うと、「それは名案!」と制作チーフが認めてくれた。冒険映画を超えるこの冒険談はまた来月号で。乞う御期待。今月の映画●『アンタッチャブル』 (1987年)●『追いつめられて』 (1988年)●『フルメタル・ジャケット』 (1988年)47
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