KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年12月号
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の名優だ。この大先輩は後のボクの二時間ドラマでお呼びするのだが、その現場の本番直前でも、『仁義なき戦い』の自分の名セリフを急に親分顔になって演じてくれて、皆で笑い過ぎて撮影が進まなかったのを思い出す。なんと、その親分さんがテレビで毎日、自慢の手料理を披露していたのだ。ボクもよく見ていた。よっぽど暇だったのかな…。とにかく、何でもありのテレビ界は景気が良かったようだ。年表で追うと、11月末には大韓航空機爆破事件が起87年、確かに、世の中は浮かれまくっていたようだ。テレビ番組では『金子信雄の楽しい夕食』なんていう料理番組があったり、政治について左派右派が好き勝手に言い合う『朝まで生テレビ!』が始まったり。はたまた、郷ひろみの結婚披露宴が生中継されたり、コント番組『志村けんのだいじょうぶだぁ』も始まったりと。金子さんというのはボクら世代が熱狂した『仁義なき戦い』で老獪で小心者の親分をコミカルに演じ、大いに笑わせてくれたあきていた。その前年、ソウルで開かれたアジア映画祭に『犬死にせしもの』(86年)を出品して渡韓した時は当地で南北の緊張感は感じなかった。でも、この頃、ボクは朝鮮半島のことをそんな深刻には考えてなかった。やっぱり、どこか浮かれてたんだろうと思う。故郷に帰った折に、天王寺新世界の洋画三本立て専門館で見つけたB・デ・パルマ監督の『アンタッチャブル』(87年)もいま一つだった。後の二本は憶えていない。デパルマに幻滅した井筒 和幸映画を かんがえるvol.33PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。46

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