を続けて演じ分けられるような若手俳優は、そうはいないだろうから。それでも本人はこう謙遜する。「僕の演技について、いろいろな褒め言葉で評価してくれるのは光栄なんですが、僕は俳優として、決してそれを目指してきたつもりはないんです」かつての自分がそうであったように―。「僕が出演する映画やドラマ、舞台を見て、そこから生きる勇気や元気をもらった、明日も頑張ってみよう…。作品を見た人にそう思ってもらえるように僕は一つ一つの作品をより良くするために、そこで与えられた役を演じるだけ。忙しくて辛かったりしんどいなと感じるときでも、そう考えると頑張って芝居を続けることができるんです」今作で初共演した上野さんは「性格は本当に誠実で真面目なのに、演技では不良性がある」と林さんを評し、「それが魅力だと思います」と分析していたが。この上野さんの分析に対し、「僕は若い頃にデビューしたので、どうしても他の俳優と比べられたり、評価されることなどを意識せざるをえない環境にいました。また、俳優の入れ替わりの早さなど厳しい世界も見てきました。経験もまだ積んでいなかった。これを乗り越えるためには〝とにかく度胸をつけるしかない〟と考えたんです。この意識は、かなり早い頃に身につけることができたと思います」と説明し、「上野さんから見たら、そうやって培った度胸が不良性のように見えるのかもしれませんね」と冷静に分析してみせた。変幻自在な演技の源滋賀県で生まれ育ち、中学3年の修学旅行で訪れた東京・渋谷駅でスカウトされ、2005年に芸能界へ。その2年後の2007年に映画「バッテリー」(滝田洋二郎監督)で中学野球部のエース投手役で主演デビューを飾り、日本アカデミー賞などで新人賞を総なめにした。翌2008年、熊澤監督の「DIVE 」で水泳飛込み競技の選手を、同年、「ラブファイト」(成島出監督)ではボクサーを、2009年の「風が強く吹いている」(大森寿美男監督)では駅伝のエースランナーを演じた。10代でデビューした当時は、こんな運動神経抜群のヒーローを演じ続けてきたが、「僕はどちらかというと運動は苦手な方でした」と明かす。「でも、その苦手意識のおかげで、どの競技も一流の指導者をつけてもらい、猛特訓することができたんです。今の俳優としての身体能力の基礎がこの10代の経験でできたのだと思います」と振り返る。この言葉を裏付けるような、こんな興味深い発言を上野さんが発している。「リハーサルのとき、何もない部屋なのに情景が見えてくるような身体表現が凄い。ものすごく安心感があった」と。かつて演じた爽やかなスポーツ少年像のイメージとは一転。24
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