KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年12月号
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今村 欣史書 ・ 六車明峰連載エッセイ/喫茶店の書斎から   「顔」という詩敬愛してやまない詩人、杉山平一先生の詩にこんなところで出会うとは。神戸元町の県民アートギャラリーでこのほど開かれた「第57回名筆研究会展」でのこと。今回のテーマは「笑」。広い会場が笑いに包まれていた。名筆研究会は、この「喫茶店の書斎から」のページに「書」を添えて下さっている六車明峰氏が常任理事をなさっており、会誌「名筆」の編集人でもある。1969年に書家村上翔雲師(著書『ひょうごの野の書』があり、これは拓本の写真を見るだけでも飽きない名著)が創設。主に現代詩(俳句などの短詩形をも含む)に材を取っての創作活動を展開している。その書は「素晴らしいなあ、美しいなあ」だけではなく、「面白いなあ」の要素もあって観ていて飽きないのだ。それはこのページの六車氏の書を見て下さっている読者にはお分かりいただけるだろう。今回の「名筆研究会展」での六車氏の作品は永田耕衣の俳句「圧された鯰と共に笑う身の節々」を迫力ある筆致と少しの遊び心で表現。縦150センチ、横270センチという大きなもの。その他二十数名の同人もこれに負けない大作を発表しておられて、それぞれの個性があふれている。わたしの大好きな文人の詩や句も採用されていて大いに楽しんだ。例えば、詩人まど・みちおの「たんぽぽ」や、八木重吉の「赤んぼがわらふ」、そして川柳作家時実新子の「アハハハハ 秋になっても アハハハハ」など。それぞれが書風も違っていて楽しいのだ。そんな中に、我が杉山平一先生の詩があって思わずニンマリしてしまった。谷本直子さんによる「顔」である。子供の画く太陽がニコニコ笑っている手も足もない身体全体が顔なんだ手や足や胴なんかどうでもいいのだ人間は顔が太陽なのだ三人でも五人にでも視線を浴びるともう まぶしくてまぶしくて杉山先生らしい明るい詩だ。しかし微かに影も感じられるのがまた魅力。この詩を谷本さんは120センチ×240センチの大作に仕上げている。ところがだ。わたしはこの詩に覚えがなかった。杉山先生の詩ならみんな読んでいるはずなのに。そこで帰宅して杉山平一全詩集(編集工房ノア・106

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