KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年11月号
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か、生まれてすぐに他の素粒子へと変わってしまうかも知れない、という理論が登場しました。その論文が発表されたのは一九六二年。論文の著者は日本人、坂田昌一、牧二郎、中川昌美の先生方です。ニュートリノが変化すると言っても、たとえば電子に変わったりするわけではありません。前回、ニュートリノとは、電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノの三種類の素粒子の総称だと言いましたが、この三種類の間で互いに変化をする、ということなのです。たとえば電子ニュートリノとして生まれたら、その瞬間から、ミューニュートリノやタウニュートリノに変化していく、しかも、また電子ニュートリノに戻ってきて、また変化する、という変化、「変身」を、絶えず行う、ということなのです。この現象を「ニュートリノ振動」と言います。この論文が発表された当時は、その現象が本当に起こっているのかどうか、調べる術がありませんでした。というのも、前回お話しした通り、ニュートリノは極めて反応性に乏しく、本格的に研究できるほどニュートリノを捉える検出器がなかったからです。しかし、その三〇年後、その「本格的に研究できる」ニュートリノ検出器が登場します。それが、カミオカンデを経て建設されたスーパーカミオカンデです。岐阜県神岡町にあるスーパーカミオカンデは一九九六年から運用開始されましたが、そこでは自然界に存在する様々なニュートリノが観測されました。そのうち、今回のお話でもっとも重要なのは大気でつくられるニュートリノです。宇宙には非常に多くの放射線が飛び交っていて、とても危険です。我々がそれを気にせずに暮らしていけるのは、大気が放射線から我々を守ってくれているからです。それは逆に言うと、大気が我々の代わりに放射線を浴びてくれているということを意味します。大きなエネルギーを持った放射線、たとえば陽子が、大気を構成する窒素や酸素の原子核と衝突すると、それらの原子核は破壊されてしまいます。このとき、その「破片」の中に、パイ中間子というものが含まれています。パイ中間子はとても寿命が短くて、数十メーター走っただけで壊れてしまいます。その壊れた先が、ミューニュートリノとミューオンです。このミューニュートリノが、大気ニュートリノに相当します。大気は地球上全てを覆っていますから、全世界で大気ニュートリノがつくられています。それをスーパーカミオカンデで観測しよう、というわけです。スーパーカミオカンデは日本にありますが、前回お話しした通り、ニュートリノは極めて反応性に乏しいので地球などないも等しいですから、地球の裏側でつくられた大気ニュートリノでも観測できるのです。ところでみなさんは海外旅行に行かれたとき、外国の空港に降り立って、途端に呼吸ができなくなって倒れたりし69

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