KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年11月号
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前回は僕の研究対象であるニュートリノについてお話ししました。しかしそれは「紹介した」程度で、その奥の深い性質の、まだまだ一端に触れただけです。今回は、ニュートリノの性質の中でももっとも重要な、ニュートリノ振動についてお話ししましょう。第3回でもお話ししたように、ニュートリノはじめ素粒子というのは、あらゆるものの素となるものです。「その中」の構造はないものと考えられています。ですから、それがこの世に生まれ出でたあとは、勝手に他のものに変わらないと考えるのが普通です。たとえば放射性物質が放射線を出して崩壊するのは、「中身」があるからです。また、このことは、我々の世界の秩序にも関わってきます。たとえば我々の身体を構成する電子が、ある時間で別のものに変わってしまうとすると、我々の身体はいつの日かなくなってしまうかも知れません。明日朝起きたら身体がなくなってしまうかも知れないと思うと、心配で夜も眠れないでしょう。でも、普通はそんなことを心配したりしませんよね。それは、このような基本的な構造は、そうかんたんに変わったりしない、という自然な思い込みがあるからです。そしてそれはごく普通の考え方です。ところが、この素粒子の中で、ニュートリノだけは別で、「ある時間が経てば」どころ多田先生!ニュートリノと 宇宙のはじまり教えて 連載〜第5回〜 ニュートリノ振動とは?宇宙のはじまりとは―。最初に存在した最も基本的な物質、つまり素粒子を組み上げて恒星や銀河系をつくり、宇宙は出来上がったと考えられています。素粒子のひとつニュートリノを研究することで、なぜ宇宙の始まりが解明できるのか、この連載で素粒子物理学者の多田将先生に教えていただきます。68

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