も小説も無力でしかないことを、痛感させられている。独裁者の領土欲だけでなく、国家、人種、民族、宗教。そんな曖昧なものの為に戦争が起こるのなら、それらの意味を改めて問い直す時だろう。「戦争」がなければ、朝鮮半島も中国台湾も分断されなかった。人は戦時に平和を思い、平時に戦争を思ってきた。文明人は敵の頭蓋をかち割って不毛な争いをする代わりに、反対する者の頭数を数えてモノゴトを決めるいきなりだが、思い出の映画たちを語る前に、今の世界情勢のことに触れたいのでお許し願いたい。それは「戦争」のことだ。虚構ではない現実の戦争だ。ロシアのウクライナ侵略戦争もいまだに終わらず、悲しくてやりきれないが、新たに起きたイスラエルとパレスチナのガザ地区の戦争地獄も痛ましい限りだ。人間はどうしてここまで愚かで野蛮なんだろう。たった数日間に何千人もの命が奪われる現実を前に、映画も音楽ことで「民主主義」を発明したともいう。なのに、いまだに野蛮から抜け出せないでいる。この嘆かわしい現実には絶句するばかりだ。映画の話に戻そう。86年の晩秋にニューヨークに出向いて、東京から運んでいった日本製のプリン菓子のCM撮影をした思い出は前号で書いた。休みの日に、下町の古い映画館を探し歩いたのも忘れられない。セントラルパークの森の遊歩道で小リスにホットドッグの端切れを井筒 和幸映画を かんがえるvol.32PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。50
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