KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年11月号
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ミステリー作家初の三冠王神戸を舞台にした長編推理小説「枯草の根」で1961年、江戸川乱歩賞を受賞し、鮮烈な作家デビューを果たした陳舜臣(1924~2015年)。その後、直木賞、日本推理作家協会賞…と立て続けに受賞し、ミステリー作家初の〝三冠王〟に輝いた。神戸が生んだ偉大な作家は〝アジアの懸け橋〟となるべく、文学で壮大なアジアの歴史に迫ろうとしていた。9年前の2014年。直筆の原稿などの資料を集めた「陳舜臣アジア文藝館」が神戸市中央区に開館した。彼は「なぜ施設に私の名を入れたのだ」と怒ったというが、神戸から琉球、中国などアジアの歴史に肉薄し、書き遺した功績ははかりしれず、彼の名を冠として刻んだ記念館は神戸の誇りである。舜臣は1924年、神戸市元町に生まれた。本籍は台湾だが、1973年に中国国籍を取得した後、1990年には日本国籍を取得している。この変遷からも分かるように、彼のルーツは複雑だが、2003年に刊行された自伝「神戸 わがふるさと」(講談社)の中に、陳家の移住の歴史が、分かりやすく説明されている。《三つ年上の兄は台湾生まれで、私以下が神戸生まれだから、陳家の本格的移住は大正時代になる。祖父は台湾ではじめて自転車に乗ったといわれるモダンボーイで、一家の移住前から日本に一人で来たり、上海や廈門(アモイ)にも遊んだようだ》陳家のルーツは台湾にあるが、舜臣の人生は神戸からスタートしたのだ。《父は一家を率いて神戸でがんばった。母は五十年も神戸にいたのに、日本語がほとんどできなかった。父の庇護もあったし、神戸という同郷人の社会があったからできたのであろう。人数はふえ我々の世代でも七男五女の大家族となった》神戸で生まれ育った舜臣は、本来ならば〝生粋の神戸人〟として育っていいはずだった。だが、日中戦争の勃発な神戸偉人伝外伝 ~知られざる偉業~㊸前編陳舜臣神戸から発信したアジアの歴史…国際人の視座から挑んだ文学142

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