KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年11月号
118/148

今村 欣史書 ・ 六車明峰連載エッセイ/喫茶店の書斎から   嘘さえも行きたいと思っていた喫茶店があった。源氏物語ゆかりの古刹「現光寺」(須磨区)のすぐ北にあるアート&ギャラリー喫茶「あいうゑむ」。オーナーは詩人の福永祥子さん。 因みに福永さんは、最近ベネチア映画祭で、黒澤明監督以来となる銀獅子賞を受賞して話題になった濱口竜介監督の映画に出演経験を持ち、また野原位監督の「三度目の、正直」にも出ている。その映画をわたしは昨年元町で観たが好演だった。それを言うと彼女は恥ずかしそうに否定するが、二作のみとはいえ女優経験があるのだ。コロナやわたしの体調のことなどでお店を訪れたことはこれまでなかった。ところが、川柳作家の茉莉亜まりさんの個展がここで開かれているのを知り、これは行かなけりゃ、と出かけた。詳しいことは省くが、わたしは茉莉亜さんとも交流がある。個展は魅力的なものだったが、そのことは略す。実はその会場で思わぬ人に出会ったのだ。フリーアナウンサーの久保奈央さん。わたしは知らなかったのだが、久保さんはラジオ関西の名物番組、「田辺眞人のまっこと!ラジオ」で田辺さんのお相手をなさっていた人。その番組にはわたし、3年前に出演している。その時、久保さんは番組を卒業した直後だったと。しかし、わたしの出演したのを聞いてくださっていて興味を持ち、一度会いたいと思っていたのだと。ということで、彼女、大いに今回の偶然を喜んでくださった。これにはもう一つ裏話がある。川柳作家時実新子さんのごく近いところにおられた川柳作家、中野文擴さんが以前からわたしに紹介したい人があると言っておられた。「そのうち連れて行きます」と。それが久保さんだったのだ。ということで、紹介者抜きで先に会ってしまったというわけだ。偶然と言えば偶然だが、茉莉亜さんも中野さんも時実さんの愛弟子。そして久保さんもそれにつながる人だった。必然だったのかもしれない。久保さんが「これ、読んでいただけましたら…」とバッグからおずおずと取り出したのは彼女の第一句集『Ferris Wheel』(2021年)。実はわたし、どうせアナウンサーさんの遊び半分の余技だろうと、見くびっていた。「あとがき」を見ると、2017年に川柳句会に初参加。そしてこの句集発行が2021年。ということは、たった4年間の句歴だ。ところがページを開いて読み進むと「これは!」と思った。作品は全てで160句以上もある。みんないいが、わたしの独断でいくつか紹介しよう。先ず、ガツンとわたしの胸を撃ったのがこれ。118

元のページ  ../index.html#118

このブックを見る