KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年10月号
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湧き出ている赤い水を浴びていたところに遭遇、ほどなく烏たちは元気になって飛び立ち、その赤い水を確かめると温かい…これが有馬温泉の起源ということになっています。神代のことですから文献によって神様の名前の呼称や表記、逸話もいろいろ諸説ありですが、大己貴命とともに有馬温泉を発見した神様、少彦名命についてざっくりまとめますと…波の向こうから天の羅かがみのふね摩船に乗り、鵝ひむしの皮を着て登場。大己貴命と一緒に国の土台を築き、その大仕事を終えると粟の茎にはじかれて常世国に帰ったそうです。鵝とは蛾、羅摩船とは大きさ10 cmくらいのカガイモの実の船だそうで、超ミニミニサイズの神様ということになりますな。ですがその神力はものすごいものでして、穀物、農耕、酒、石など神徳は多種多彩!そして何より、少彦名命は薬と医療を司る薬祖神として崇敬を集めています。そ「人物帖」と銘打っておきながら、今回の主役は神様!?前回の手塚治虫もマンガの神様ですし、秀吉も没後は豊国大明神になりましたし、神と人は「カミ一重」ということでご寛恕を。さて、ここ2回ほど医者のお話でしたが、有馬に限らず温泉は医療と深い関わりがございます。昔は病気や怪我に対し、治療法は薬草と温泉と神仏に祈るくらいしかなかった訳ですし。太古より数多くの病人や怪我人が湯治場に選んだ有馬温泉ですが、人気があったのは実際に治った人が多かったからかもしれませんし、立地や滞在環境の良さも理由かもしれませんが、神仏にすがることも大事な治療法という時代にはその面でも何か訳がありそうです。それを紐解くのは、日本書紀にある有馬温泉の開湯伝承。大おおなむちのみこと己貴命と少彦名命が薬草を探して全国を巡っていると、たまたま有馬の地で傷ついた三羽の烏がんな神様ゆかりの有馬温泉ですから、救いを求めてやって来る湯治客も少なくなかったでしょうね。少彦名命をお祀りする神社は全国にいくつもありますが、有名なのは日本屈指の薬の街、大阪は道どしょうまち修町の少彦名神社でしょうか。こちらの御霊は京都の五条天神宮から分祀されております。五条天神宮は少彦名命が主祭神で、平安遷都の際に桓武天皇が空海に命じて勧請した洛中最古のお社。義経と弁慶の出会いの場でもあるそうです。かつては「天使の宮」とよばれその敷地は広大でしたが、秀吉がそこをバッサリ、南北に真っ直ぐ貫く道路をつくっちゃった。その道沿いは現在、天てんしつきぬけ使突抜という地名になっています。秀吉は最晩年、有馬に湯山御殿を建てたけど、そこへは行けず真っ直ぐあの世への道へ。そうなっちゃったのは都の一等地を奪われた有馬の始祖神、少彦名命の祟りかもしれませんね。有馬温泉歴史人物帖〜其の七〜少すくなひこなのみこと彦名命 生没年不詳(神様なので)※文献により「少名毘古那神」「スクナミカミ」等とも記されていますが、本稿では「少彦名命」で統一します。82

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