KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年10月号
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つ、広がることを意識したお店だったなと思います。 銀巴里の 歌い手さんたち銀巴里はいつも、知らないシャンソンがいっぱい流れていました。聴きたくたって、今のようにすぐに聴くことはできない時代。歌い手たちはレコードを取り寄せたり、他にもシャンソンを聴かせるお店がありましたから、そこでお運びのアルバイトしながら聴いたりして、必死に覚えて、必死に勉強していました。本当にシャンソンが好きで、そして銀巴里で歌いたくてオーディションを受けるんです。夢の舞台ですよね。そう、いわゆる“舞台”はないの。お客さんとの段差がない。そこは怖くもありました。 憧れた歌手 金子由香利さん金子さんの歌を聴いた時は、驚きというかショックというか。それまで聴いていた圧倒されるようなシャンソンとは違って、さりげない、まるでポエムのような、お芝居を見ているような…。大人の恋の歌。泣けちゃった。声量はないけれど言葉と言葉の間に余白があって、歌の中にお客さんが入っていける余白というか間を作る。ということなのかな、と後になって気づきましたけれど、そういう金子さんの芸の力に惹かれました。語るように歌う、歌うように語るシャンソンの奥深さを知り、大きな影響を受けました。 銀巴里の歌 『時は過ぎてゆく』「眠ってる間に 夢見てる間に 時は流れ 過ぎてゆく」そんな感覚って若い頃はわからなかった。ようやくわかってきたんですよね。原題は「もう遅すぎる」。時間は巻き戻せないから。だから身にしみてわかる。気分は暗くはないんです。「それはそれでいいじゃない。巻き戻すのも嫌でしょ」って。時に対しての種々雑多な気持ちが、歌に込められる年齢になったということでしょうね。 銀巴里の歌 『ヨイトマケの唄』美輪明宏さんが作った、日本産の最高のシャンソンです。歌うことは畏れ多いとも思いましたが、歌うことで教えていただけることもあるかもしれないと思いました。昭和初期に生きた人たち、町も職業も見えるドキュメンタリーみたいな歌。今、令和の時代に伝わるのか、と考えたこともありましたけれど、余計な心配でした。人間の愛はいつの時代も変わりはないと、この歌が教えてくれました。 銀巴里の歌 『わが麗しき恋物語』「人生ってなんて愚かなものなの」。その歌詞の意味することを、最近特に切実に感じています。父と母と自分の生活に、今、てんてこまい。私はどうしてもっとちょっと大きな愛を持てないんだろう。愛の歌を歌っているのに。こんなに長く生きてきたのに。この歌は原詞とは全く違う新しい物語を、詩人の覚和歌45

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