に述べておこう。寒山拾得とは、中国にある霊地、天台山を舞台にして生まれた、寒山と拾得という二人の伝説の人物である。唐の時代の風狂僧として有名で、いつも奇妙な笑いを浮かべて、その行動は常軌を逸しており、実在の人物かどうかも定かではない。拾得は天台山国清寺に住した豊ぶかん干禅師に拾われたので、その名を拾得という。この拾得は国清寺に住居を与えられている。一方、寒山の名は、寒巌、翠屏山に隠棲していたことにちなんでいる。その寒山は国清寺に行き来して、拾得から残飯をもらっていたという。二人はボロの着物に木靴を履いた奇妙な姿で、常人には理解できない言葉を発して奇行を繰り返したという。この常識を越えたような二人の行動が仏法の真理を目覚めさせる人物と神戸で始まって 神戸で終る ㊷の中心は寒山拾得をモチーフにしたものであるが、当展では、寒山拾得に至るその過程が理解できるような、それ以前の作品も同時に展示することで、なぜ寒山拾得を描くようになったかを、言葉の説明ではなく、それ以前の作品と対峙することで、感覚的に理解できるように構成されていたように思う。僕が現地に行かなくても、学芸員が毎回、構想した展覧会プランを持参して、くわしく説明をしてくれるが、それを拝見するのも、いつのまにか僕の愉しみになっている。同じ作品でも展示構想が変わり、展示空間も変化することで、従来の作品が全く異なった様相を呈して、まるで初めて見るようだと、東京での展覧会を観た人の感想である。ここで寒山拾得について簡単『Forward to the Past 横尾忠則 寒山拾得への道』展は、開館10周年記念展になるらしい。この10年にいくつの展覧会が開催されたのか、僕には記憶がない。この間にコロナが流行して、僕も神戸に行く(帰る?)ことがなくなったので、この間、ほとんどの展覧会が学芸員まかせになってしまったが、逆に僕の不在によって展覧会はうんと面白くなって、観客動員にも成功しているそうだ。この『寒山拾得への道』展は、2021年に東京都現代美術館で開催された、過去最大規模の600点による『GENKYO 横尾忠則』展のために新たに描き下ろした作品を中心に、横尾忠則現代美術館で、新たに組織し展示したものである。この新たに描き下ろした作品Tadanori Yokoo美術家横尾 忠則撮影:山田 ミユキ1818
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