KOBECCO(月刊 神戸っ子) 2023年9月号
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今村 欣史書 ・ 六車明峰連載エッセイ/喫茶店の書斎から   放射線治療体験記「その話、ぜひ聞かせて下さいっ!」とカウンターを挟んで前のめりになられたのはYさん。年に一度、損害保険の更新手続きに来てくださる人だ。「一年が早いですねえ」のあと、「体調はお変わりなかったですか?」と、おっしゃった。そこでわたし、「いや実は、がんになりまして」「え?それは…」「いや、お陰様で無事に治療も済みました」「で、なんの?」「前立腺でした」彼も今、PSA(前立腺がんを早期発見するための血液検査)の数値が上がってきていて、心配しているのだと。がんと診断された時の治療法で迷っていると。また、親しい友人が同じがんで困ったことになっているとのこと。それで余計に心配なのだ。そこで、わたしの体験を縷々おしゃべりさせていただいた。Sさん、むさぼるように聞いて、「良かった。いい話をお聞きすることができました」と大いに喜ばれた。そこで思い至った。わたしの体験を一冊にしようと。Yさんのような人に読んでもらえればお役に立てるのではないかと。わたしのメーンブログ「喫茶・輪」は、たくさんの人が見て下さっているのだが、別に、読者限定のブログを持っていて、そこにはごく個人的なことを書いている。これを整理して簡易製本ではあるが一冊に仕上げた。50ページある。読んでみると、ああ、こんなのがあったらわたしが大いに助かったのに、と思えた。冒頭はこう始まる。《五、六年前にかかりつけのクリニックで前立腺がんの血液検査を薦められ受けたところ、微妙な数値が出て専門医を受診することになった。(略)その時は異状がなかったが、定期的に血液検査を受けることになった。》それが、このほど数値が上がっているということで精密検査を受けることになった。《MRI検査で疑いが深まり、生検へと進んだのだがその間の時間がなんとも不安なものだった。その結果、「やはり出ました」と主治医。》わたしは放射線治療を選択し、やがて第一回目の治療。《事前の担当医の説明では「なんの痛みもありませんので、安心して受けて下さい」とのこと。その通りでした。106

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