してしまえる。後年に撮る『ヒーローショー』(2010年)のラストシーンでは、背景に写る富士山を撮ってみたら何か低く見えたので、CG処理で五合目から下の裾野を足して、山を高く上げたこともある。何でも描ける時代になった。映画がそれでいいのか悪いのかは知らない。ついでに言えば、60年代の傑作、『ブリット』(68年)で、タフな刑事に扮したS・マックィーンが自ら運転するマスタングGTと逃走する悪党の黒いダッジのカー敗戦直後の瀬戸内海を舞台にした海賊アクション、『犬死にせしもの』の苦難続きの撮影がアップしたのは、1986年の2月頃だったか。海の上で時代モノなんか撮るもんじゃないと思ったものだ。船の周り四方は海原でも、その先の沿岸の景色すべては現代だから、そこに建つリゾートホテルや白亜のペンションやデカい広告塔が画面に映り込まないように撮るだけで一苦労だった。今なら、CG合成で邪魔物はビルでも何でも消チェィスは忘れられない。ダッジが猛スピードで正面に構えたカメラすれすれに疾走したショットは、思わず腰が浮く感じだった。隣り席の彼女も思わず頭ごと横に逸らし、悲鳴まで上げていた。あの頃の正真正銘の実写のスリル感が、虚像でしかないCG画面で同じように体感できるかはちょっと疑問だが。撮影が終わっても肩の荷が全部下りたわけではなく、東京に戻ると、次の作業が待っていた。現像したラッシュフィルム井筒 和幸映画を かんがえるvol.29PROFILE井筒 和幸1952年奈良県生まれ。奈良県奈良高等学校在学中から映画製作を開始。8mm映画『オレたちに明日はない』、卒業後に16mm映画『戦争を知らんガキ』を製作。1981年『ガキ帝国』で日本映画監督協会新人奨励賞を受賞。以降、『みゆき』『二代目はクリスチャン』『犬死にせしもの』『宇宙の法則』『突然炎のごとく』『岸和田少年愚連隊』『のど自慢』『ゲロッパ!』『パッチギ!』など、様々な社会派エンターテイメント作品を作り続けている。映画『無頼』セルDVD発売中。48
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